【福本潤・元医師】データのささやきが変える組織 ― ノーコードとAIが描く未来の働き方
Photo by Christin Hume on Unsplash
朝のオフィスは静かだ。パソコンの画面に映る業務アプリやスプレッドシートの数字は、単なる数字ではなく、組織の意思決定のヒントの塊だと気づいたのは最近のことだ。AIが個人作業の効率化を助ける時代は終わりつつある。今、注目すべきはチームや組織全体での価値創造だ。個人でChatGPTを使いこなせても、チーム単位で業務改善に役立てることは簡単ではない。だからこそ、蓄積されたデータをどう活かすかが企業の命運を分ける。
サイボウズの「kintone AIラボ」は、その課題に挑む先駆者だ。業務アプリに蓄積された情報をAIで解析し、組織全体の業務効率化や意思決定の最適化を支援する。たとえば営業チームでは、顧客とのやり取りや過去の対応履歴をAIが分析し、最適な提案や対応タイミングを提示してくれる。従来の属人的な判断がデータ駆動型に変わる瞬間だ。
多くの企業は非構造化データの活用に課題を抱えている。メール、チャット、議事録、日報――目に見えない情報は膨大だが、放置されることが多い。ここでノーコードツールが力を発揮する。現場で柔軟に情報を整理・蓄積でき、AIで分析すれば、思わぬ改善ポイントや新たな価値が浮かび上がる。机の隅に散らばった情報が未来の戦略を教えてくれるようだ。
kintone AIは専門知識がなくても扱えるため、非IT部門のメンバーも「ちょっと試す」ことが可能だ。案件管理アプリを作りたいと入力すれば、AIが必要な情報を質問し、回答に応じてアプリを生成する。これによりチーム全体で同レベルの管理が可能になり、個人差に依存せず業務改善が進む。経験豊富なスタッフが勘で行っていた判断も、データ化されAIが補助することで全社で共有される。
ノーコードとAIの組み合わせは、単なる効率化を超える。組織全体でデータを活用し、暗黙知を共有資産に変える力を持つ。小さく始め、成果を確認しながら拡大するサイクルを回すことで、企業は確実に競争力を高められる。データのささやきが、私たちの働き方を革新し、組織の未来を描くのだ。