【松野翔太:堺市/教師】朝の電車は小さな宇宙
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朝の通勤電車は、まるで小さな宇宙のようだ。車両に乗り込むと、知らない人々がそれぞれの軌道を描きながら動き、個々の世界が一瞬だけ交差する。スマートフォンを操作する手、新聞をめくる指、イヤホンから漏れる微かな音楽、互いにぶつからないように立つ姿勢。見慣れた日常だが、観察してみるとそこには無数のストーリーが渦巻いている。
ある日、私は意識的に普段と違う車両の位置に立ってみた。いつもはドア付近にいるが、車両の中央に身を置くと、人々の動きがまるで別の惑星の生命活動のように見えた。隣に立つスーツ姿の男性は何か考え事をしているのか、視線は遠くをさまよい、手元のカバンはまるで小さな宇宙船のように静かに揺れている。反対側では学生らしき女性がノートに何かを書き留め、ペンの動きが微細な彗星の軌跡のように見えた。
通勤電車はただの移動手段ではなく、人間観察の極上のフィールドだ。人々の表情や仕草、身の回りの小物に目を向けることで、日常の一瞬がまるで映画のワンシーンのように立ち上がる。忙しい朝の時間も、こうして観察することで、退屈どころか未知の発見に満ちている。
さらに面白いのは、車両内の人々が互いに意識しながらも絶妙な距離感を保っていることだ。誰もが他者の存在を認識しているが、必要以上には干渉しない。社会の縮図がここにはある。電車の揺れや音、扉の開閉といった偶然の要素が、その関係性に微細な変化を与える。ほんの数秒の視線の交錯や、肩が軽く触れ合う瞬間にも、無数の物語が潜んでいる。
こうした日常の観察を積み重ねることで、私は自分の働き方や人との関わり方にも新たなヒントを見つけることができた。小さな宇宙の中で人々の動きを読む力は、チーム内でのコミュニケーションやプロジェクトの進め方にも応用できる。見過ごしがちな日常の中に、実は学びや発見がぎっしり詰まっているのだ。
次に電車に乗るときは、スマホを少し置いてみてほしい。人々の息づかいや動きに注意を向ければ、通勤時間は単なる移動ではなく、小さな宇宙を旅する時間に変わる。日常の観察力が、仕事や生活の新しい視点を与えてくれるだろう。