【高倉友彰】街の音を仕事に変える人たちの話
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朝、駅のプラットフォームに立つと、雑踏の音が耳に入る。電車の走る音、改札のピッという音、人々の足音。普通なら雑音としか思えないこれらの音を、僕はある日の取材でまったく違う角度から見ることになった。街の音を収集し、それをコンテンツやサービスに変えている人たちがいるというのだ。
彼らの仕事は特殊だ。日常の音を録音し、そこから心地よいリズムや癒しになるパターンを抽出して、アプリや映像作品に落とし込む。最初は「ただ音を集めてどうするのか」と思ったが、実際に体験すると、街の喧騒が音楽や瞑想コンテンツに変わる瞬間は、まるで魔法のようだった。人々はそれを聞いてストレスを軽減したり、仕事や勉強に集中したりする。
さらに面白いのは、この仕事が求めるスキルだ。単に音を録るだけでなく、環境や時間帯、季節による変化を読み取り、音の組み合わせで新しい価値を生み出す。偶然の音の重なりを見逃さない観察力、分析力、クリエイティブな発想が必要だ。街に溢れる雑踏は、工夫次第で無限の可能性を秘めている。
取材を続けるうちに気づいたことがある。僕たちは日常に溢れる音をほとんど意識せずにスルーしているが、その裏には膨大な情報と感情のデータが埋まっている。これを価値に変えられる人は、まさに現代の「音のデザイナー」なのだ。彼らは街の雑踏に耳を澄ませ、働く時間や移動の中で感じる小さな喜びを拾い上げる。
記事を書きながら、自分自身も街を歩く目が変わった。今では、駅のホームでさえも、ただの通過点ではなく、音の素材の宝庫に見える。日常の些細なものから新しい価値を生み出す視点こそ、現代の仕事の面白さだと感じる。僕たちは気づかないうちに、無限のリソースの上に立っている。