【高倉友彰】未来の経営者はタイムマシンで意思決定をしている
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ある日、もしあなたが2050年の自分の会社を見られるとしたら、今どんな決断をしますか。逆風に揺れる経済、予測できない政策、変わりゆく気候――現代の経営には、日々の選択が未来を左右する重みがあります。多くの企業は短期の目標やコスト削減に目を奪われがちですが、長期視点で未来から逆算する「バックキャスティング思考」は、その判断を大きく変えます。未来の理想像から現在を見直すことで、今の小さな一歩が社会価値と経済価値の両立につながるのです。
脱炭素経営を考えるとき、多くの企業が2030年の目標年を意識します。しかし、気候変動や社会課題は一朝一夕で解決できるものではありません。2050年という長期の時間軸で逆算すると、今何を始めるべきかが鮮明に見えてきます。猛暑や資源不足、原材料の調達難はもはや「遠い未来の問題」ではなく、現実のリスクとして企業経営に直結しています。逆算思考を取り入れた企業は、単なる規制対応を超えて、事業機会として脱炭素に取り組むようになっています。
投資家もまた、長期的なビジョンを描く企業に注目します。社会のニーズと企業のありたい姿が明確であれば、資金も集まりやすくなるのです。Scope 3の開示義務化やサプライチェーン全体の排出量管理も、最初は負担に思えるかもしれません。しかし、これを通じて取引先と新しい協働や改善プロジェクトが生まれ、結果として企業全体の競争力を高めることにつながります。小さな成功体験が経営層の意識を変え、より大胆な意思決定を可能にするのです。
変化の時代には、現状維持は最大のリスクです。150年間築き上げた化石燃料依存の仕組みを、わずか30年で転換しなければならない時、恐れるか挑戦するかで未来は決まります。逆風は脅威であると同時に、新しい社会ニーズに応えるチャンスでもあります。バックキャスティング思考は、単なる戦略手法ではなく、経営者が未来を味方につけるためのタイムマシンのようなものです。
今、私たちが選ぶべきは、未来を見据えた意思決定を日常に落とし込み、社会価値と経済価値を両立させることです。小さな一歩が未来を形作り、変化をチャンスに変える。この思考こそが、これからの日本企業を世界でリードさせる力になるのです。