ベルリンを走るピンクと青の配管
はじめまして。サインコサインでディレクターしているこいづかです。
自分のディレクション力を鍛えるべく、日々の生活に紛れているデザインされたアイデンティティたちを見つけて、記していこうと思っています。
そのはじめての日記として、ベルリンに行った時に見つけたアイデンティティのお話をします。
ベルリンの壁を歩いていて、一番「なんだこれは?」と思ったものは、壁のアートやその規模ではなく、ニョロニョロと街中に走るピンクと青の太い配管でした。
左の赤枠部分にピンクの配管が。
交差点をまたいでカクカクと曲がり、工事現場からどこかへと伸びていく。最初は「アート作品?」「ベルリンの壁の跡をなぞっているサイン?」と想像しましたが、どう見てもあまりに実務的な造形をしています。
調べてみると、地上配管はベルリン名物らしく、その正体は工事で必要不可欠なインフラでした。
頭上の配管が走る理由
ベルリンは湖や川に囲まれた沼地上にできた街で、地下水位が高い。地下を掘るとすぐ水が湧いてくるため、工事現場では、くみ上げた地下水を川や運河まで運んで逃がさなければならない。その地下水の通り道として使われているのが、頭上を走るピンクと青の配管である、ということでした。
街のどこかで常に工事が行われているせいで、一時的な設備だったはずの配管は、いつのまにかベルリンの名物になってしまった、という経緯もあり、より一層興味が湧いてきました。
2色のコーポレート・アイデンティティ
「これはアイデンティティの可視化事例だな」と思ったのは、この配管の色について知ったときです。
ピンク:子どもに人気の色を選んだ会社
ベルリンの地上配管の多くを手がけてきたのは、Pollems(ポレムス)という企業だと言われています。
1990年代、この会社は都市中に張り巡らされる配管の色を決めるにあたって、心理学者・研究者に相談したそうです。「子どもが一番好きな色は何か?」と。その答えが「ピンク(と紫)」だったことから、Pollems は配管の色をピンクに決めたそうです。
- 子どもが喜ぶ色であること
- 大人にとっても「若々しさ・楽しさ」を連想させること
- 工事中というネガティブな状況を、少しでも柔らかく見せられること
そんな想いがこのピンクに込められているそうです。一時的な設備であるにも関わらず、市民の視界までを意識して色を選ぶ発想には、街と人に寄り添おうとする Pollems のアイデンティティが透けて見えます。
青:エンジニアリング企業らしい「信頼」の色
一方で、ベルリンの地上配管には青いバージョンも存在します。こちらは主に Brechtel(ブレヒテル)というエンジニアリング企業の配管です。
Brechtel は水・ガス・電気などの配管インフラを扱う会社で、企業ロゴやサインにも青を使っています。青は一般に「技術」「信頼」「冷静さ」といったイメージを持つ色なので、エンジニアリング会社のコーポレートカラーとして最適な色だと感じました。
カラーだけでも、アイデンティティを表現できる
Pollems のピンクには、
- 工事中の光景さえ、少し楽しくしたい
- 街と子どもたちに好かれたい
というアイデンティティがにじんでいます。
Brechtel の青には、
- 技術・信頼・正確さといったエンジニアリングらしさ
- きちんとしたインフラを支える裏方としての自覚
のような自己イメージが見えてきます。
どちらも、「地下水をくみ上げて川に流す」という機能だけを見るなら、別にピンクでも青でも、なんならグレーでも問題はないはず。
にもかかわらず、「どの色を選ぶか」というごく小さな決断が、街の印象を変え、旅行者の記憶に残り、企業のアイデンティティを世界に向けて可視化してしまうダイナミックさにブランディングの面白さを感じます。
お仕事に活かしたい今回の学び
誰の視界に一番入る色か?
社員か、顧客か、街の人か。配管のピンクは、日常的に街を歩く人と子どもたちのための色だった。
どんな心の状態で見られる色か?
安心したいとき、ワクワクしているとき、不安なとき・・・。工事現場の配管は本来「ちょっと迷惑な存在」だからこそ、ポジティブな色が選ばれている。
どれくらいの頻度と距離で見られる色か?
たまに広告で見られるのか、毎日オフィスや街中で目に入るのか。ベルリンの場合、配管は街中にあり、高頻度かついろんな距離で見られる前提の色選びになっている。
ベルリンの配管には、「インフラ」という、これ以上ないほど機能的な対象にさえ、アイデンティティはにじみ出てしまうということを教えてもらいました。ベルリンの壁のアートもとても良かったのですが、機能的なものについ目がいってしまう私は、アートを楽しむ余裕のない今を生きる人みたいで、思い描いていた大人とは違ってきているなぁ、と先を憂いました。また何か気づきがあったら、書こうと思います。