【山本達也:千葉県/市川市】観葉植物は会議を聞いている
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会議室の隅に置かれた観葉植物は、いつも静かにそこにいる。誰も話しかけないのに、そこにあるだけで場の空気が和らぐのは不思議だ。私が最初にその存在を意識したのは、重苦しい打ち合わせの最中だった。誰も笑わず、資料をめくる音だけが響いていた。そのときふと視線を横に向けると、大きな葉がゆらりと揺れていた。空調の風を受けただけなのに、まるで「まあ落ち着いて」と諭されているように感じた。
植物は何も話さないが、確かに空気を変える。心理学的にも緑を見ると人はリラックスしやすいと言われている。だが私はそれ以上に、植物が人間の言葉をすべて受け止めているような気がしてならない。愚痴も怒号も、希望の宣言も、何も反応しないふりをして、すべて葉に染み込ませている。もし観葉植物に心のレコーダーがあるなら、そこには企業の歴史が詰まっているだろう。
以前、観葉植物の水やりを当番制にした会社で働いたことがある。順番が回ってくると、なんとなく責任感が芽生え、普段よりも植物を気にするようになる。すると不思議なことに、仕事への姿勢まで少し丁寧になる。同僚も同じことを言っていた。「植物が枯れると、自分がさぼったみたいに見えるから」と。つまり植物は人間に「世話をすることの連鎖」を思い出させる装置なのかもしれない。
さらに面白いのは、来客があるときだ。植物の横に通されたお客様が「この緑、いいですね」と言った瞬間、その場の緊張がすっと解ける。会議室の空気は目に見えないが、植物が潤滑油の役割を果たしていることは明らかだ。もし植物がなければ、同じ会話でももっと堅苦しかっただろう。
働き方改革やオフィスデザインの進化が語られるとき、最新の設備やITツールに注目が集まる。しかし、静かに葉を揺らす植物こそが、人間の集中力や関係性を左右しているのではないか。機械が生み出す効率と違い、植物は余白を与える。人が人らしく呼吸し、考え、対話できる時間を作っている。
観葉植物は会議を聞いている。今日もまた誰かの声を受け止め、黙って葉を揺らしている。そして気づかぬうちに、その沈黙が私たちを支えている。