【元島純貴】オフィスで「書かない社員」が増える理由
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最近、オフィスで目立つのは、手帳やノートを開かず、メモを取らない社員の姿です。パソコンやスマホでのやり取りが中心となり、書くこと自体が希少になっているのです。しかし、書かないことは単なる効率化の影響ではなく、思考力や創造力の低下につながるという調査結果があります。東京大学や日本漢字検定協会などが行った研究では、ノートを取らず読書習慣もない学生は、国語能力や論理的思考力に明らかな差が見られました。書くことと読むことは脳の言語野で連動しており、文字情報を入力・構造化することで初めて理解や推論が可能になるのです。つまり、書かない社員は、単に記録を残さないだけでなく、考える力そのものを使う機会を減らしていることになります。
私自身、入社当初は手書きでメモを取る習慣を持っていました。会議中に話を聞きながら手を動かすことで、頭の中で情報が整理され、優先順位や課題の全体像が見えてきました。それは単に記録を残すためではなく、考えるための作業だったのです。デジタルメモは確かに便利ですが、画面上で整理するだけでは頭の中の情報構造は浅くなりがちです。紙に書くという行為は、情報を自分の脳で「咀嚼」するプロセスを助け、次の行動への推論や創造的なアイデアを生むのです。
さらに、書く習慣はチームでのコミュニケーションにも影響します。手書きメモや共有ノートを通じて、自分の考えを可視化することで、他者との認識の齟齬を減らせます。逆に、書かず口頭だけで済ませると、情報の抜けや誤解が生まれ、プロジェクト全体に影響することがあります。読む習慣も同様に重要です。メールやチャットだけでは、長文の読み取りや深い理解が疎かになり、相手の意図を正確に把握する力が落ちてしまいます。
現代のオフィスでは効率が重視されますが、効率ばかりを優先して書く習慣や読書習慣を失うと、思考力と表現力の低下を招く危険があります。1日10分でも手帳にアイデアを書き出す、記事を一つ読む、議事録を手書きでまとめるなど、小さな習慣の積み重ねが、脳の活性化と創造力につながります。書くこと、読むことは単なる作業ではなく、仕事の質を高める最強のスキルなのです。