【城間勝行】コードから木漏れ日へ、エンジニアの意外な衝動
Photo by Janine Meuche on Unsplash
普段はWebシステムや業務アプリケーションの開発に没頭し、画面の中のロジックと格闘する日々を送っています。論理的な思考と精密なコードが私の仕事の核。しかし、この時期になると、まるで衝動に駆られるかのように、ある「意外な行動」に出たくなります。
それは、山への日帰りハイキングです。
想像してみてください。複雑なデータベースの設計図とにらめっこする毎日から一転、リュックを背負って、ひたすら山道を登る。もちろん、体力維持のために運動はしますが、この時期の山歩きは、ただの運動とは少し違います。
なぜ、無性に山へ行きたくなるのか。最初は自分でも不思議でした。SIer時代、大規模システムの要件定義で煮詰まった時も、独立後、スタートアップのプロダクトの方向性に悩んだ時も、オフィスで頭を抱えるばかりでしたから。
でも、ある時気づいたんです。山の中は、まさに「究極のアナログデバッグ環境」だと。
普段、私たちはパソコンの画面越しに、大量のデータや情報を処理しています。問題が起きれば、ログを追跡し、変数を一つずつ確認し、バグの原因を特定していく。それは、膨大な情報の中から、微細な異常値や誤作動を見つけ出す作業です。
一方、山の中ではどうでしょう。聞こえてくるのは鳥の声、風の音、自分の足音だけ。目の前には、整備された道もあれば、根っこがむき出しになった足場の悪い場所もある。一つ一つの石の感触、木の枝の匂い、空気の冷たさ…すべてが五感を通してダイレクトに伝わってきます。
私はこの時、まるで、自分の思考回路がデフラグされているような感覚になります。デジタルな情報過多な日常から離れ、脳が自然の中で「リフレッシュ」されることで、逆に思考が整理されていくんです。山道を登りながら、ふと立ち止まって景色を眺めると、昨日まで複雑に絡み合っていた開発課題が、まるでパズルを解くように、シンプルに見えてくることがあります。
例えば、ある機能の実装方法で悩んでいた時。山道を歩きながら、「この木の根っこは、まるでシステムの依存関係だな」なんて考えていると、突然、全く別の視点から解決策が閃いたりするんです。それは、画面上では見えなかった「木の幹」や「根っこ」のような、本質的な構造が見えてくる瞬間。
さらに、山歩きは「不確実性への対応力」を鍛えてくれます。天気は急変するかもしれないし、道に迷うこともある。そんな時、どう対応するか。それは、要件が固まりきっていないスタートアップのプロダクト開発において、柔軟な思考で仮説検証を繰り返す私のスタイルと、驚くほど共通しています。予期せぬ事態に直面しても、立ち止まらず、冷静に状況を判断し、最善の一手を見つける。この能力は、山の中でも、そして開発現場でも、非常に重要なスキルだと感じています。
この時期の山は、新緑が眩しく、生命力に満ち溢れています。そんな中で思考を巡らせると、新たなコードへのインスピレーションが湧いてくる。私の「無性に山へ行きたくなる衝動」は、まさに、エンジニアとしての私の感性を磨き、次の開発へと繋がる、かけがえのない時間なのです。