<城間勝行>仕様書より大事なもの
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「このプロジェクト、なぜうまくいかないんだろう?」
あるスタートアップでプロダクト開発を支援していたとき、僕はしばらくその問いに悩んでいた。
チームのスキルは高い。仕様も整理されていた。けれど、開発のスピードは出ず、プロダクトの完成度も上がってこない。
原因を探るうちに、あるシンプルな事実に気づいた。
――チーム全員が「なぜこのプロダクトを作るのか」を共有できていなかった。
仕様書には「何を作るか」は書かれていたけれど、「なぜそれを作るのか」は誰の頭にも明確ではなかった。
だから、ちょっとした仕様変更で混乱し、議論が空回りし、手戻りが増えていたのだ。
僕は、週に1回、30分だけ「仕様を見ない雑談ミーティング」を始めることにした。
「そもそも、これって誰のためにあるプロダクトなんだっけ?」
「ユーザーが一番困ってることって何だっけ?」
最初は照れもあったけれど、少しずつメンバーの言葉に熱が宿り始めた。
雑談の中で出てきた一言が仕様を変えたり、会話の中で「こうしたほうがいいかも」と自然に改善案が出るようになった。
そのプロジェクトは、予定より少し遅れてリリースされた。
でも、そのプロダクトはちゃんとユーザーに使われ、導入企業が次々と増えていった。
「これ、本当に現場で助かってるって言ってもらえました」と、PMが笑顔で報告してくれたとき、胸が熱くなったのを今でも覚えている。
エンジニアにとって大事なのは技術力。
でも、もう一歩踏み込むなら、「なぜ作るのか」を仲間と一緒に考える力が必要だと思っている。
仕様書は大事。でも、それよりもっと大事なのは、プロダクトの“魂”だ。
その芯をチームで持てたとき、ものづくりはグッと強くなる。
 
 
