夜遅く、仕事帰りに駅のホームで電車を待っていると、ふと周りの人たちの動きが気になった。改札を通るときの手の動き、スマホを操作する指先のスピード、カバンから取り出すチケットの順番。どれも日常の何気ない行動なのに、観察しているとひとつひとつが小さな「システム」のように見える。
僕は独立してフリーランスになり、少人数チームでスピード感のある開発に携わるようになった。要件が固まっていないことも珍しくないため、仮説を立てて試行錯誤する力が求められる。駅で人々を眺めていると、ユーザーの動きを想像することと、目の前の行動を観察することがまるで同じだと感じる瞬間がある。
例えば、改札を通る人がスムーズに動けるように駅の通路は設計されている。しかし、突然大量の人が一斉に流れてくると、どこかで小さな混雑が生まれる。これはWebアプリでユーザーが一気にアクセスしたときに似ている。小さな改善やUIの工夫で、混雑を解消し、全体の体験を快適にすることができるのだ。
ある日、駅のベンチに座って人の流れを観察していたとき、今開発中の業務アプリの画面遷移に関するヒントが浮かんだ。人の動きに合わせて情報を出すタイミングを調整することが、ユーザー体験を大きく向上させると気づいた瞬間だった。日常の何気ない観察が、仕事に直結するのだ。
独立してからは、クライアントの要望やチームの状況に応じて柔軟に対応することが常だ。しかし、こうした柔軟さも、観察力があってこそ活かせる。駅のホームで目にする無数の小さな動きや選択は、ユーザーの行動や反応を予測する練習にもなる。
だから僕は今日も、夜の駅に立ち寄り、流れる人々の動きを眺める。観察した内容を頭の中でコードやUI設計に変換する作業は、誰にも見えないけれど、プロダクトの完成度を上げる重要な時間だ。日常と仕事は切り離せない。観察力を磨くことで、チームやプロダクトに新しい価値を生み出すことができるのだと、駅のホームで毎回実感する。