経営者の情熱を暴走させない仕組み
「熱い情熱」と「冷徹な論理」。一人の頭の中で使い分けるのが心理学的に不可能な理由。
こんにちは。NTMC 西日本コンサルティング部の松浦智和です。
前回の記事では、変化の激しい現代ビジネスにおいて、経営理念を信じ抜く「良い意味での過信(アクセル)」が、会社を前に進めるための強力な原動力になるというお話をしました。
しかし、アクセルを踏みっぱなしの車がいつか大事故を起こすように、情熱だけで突き進む組織には常に暴走のリスクがつきまといます。
「いや、私は経営者として、常に冷静にブレーキも踏んでいるから大丈夫」 そう思われるリーダーほど、実は人間の脳に組み込まれた、ある「心理学的な罠」に陥っているかもしれません。
連載の第3回は、一人の脳内でアクセルとブレーキを使い分けることの限界と、名著『企業参謀』の視点をベースにした「組織としての解決策」を紐解いていきます。
一人の人間の頭の中で「アクセルとブレーキ」は使い分けられない
理念を信じて突き進む過信は強力なアクセルになりますが、スピードが出すぎるからこそ、どこかで間違えたときに大事故を起こすリスクも跳ね上がります。大切なのは、新しく始める時は大胆にアクセルを踏み、始まった後は冷徹にブレーキを踏んで「間違っていないか」を検証することです。
しかし、これを一人の人間の頭の中で使い分けるのは、心理学的にほぼ不可能です。
人間には、一度自分で決めてスタートしたプロジェクトに対して、後から間違いを認めたくないという強い心理(コミットメントのエスカレーション)が働くからです。どれだけPDCAを早く回そうと心がけても、無意識のうちに「自分の都合の良いデータ」ばかりに目を向けてしまい、ブレーキを踏むタイミングを失ってしまいます。
だからこそ、過信のコントロールは個人の意識や心がけに頼るのではなく、「仕組み」で解決しなければなりません。
大前研一氏が説いた「参謀機能」を組織に組み込む
最も理想的な解決策は、推進役(アクセル)と検証役(ブレーキ)を、組織の中で明確に分けることです。
例えば、未来を切り拓く社長自身がアクセルになるのであれば、右腕であるナンバー2の幹部を「検証役」に任命するのです。
大前研一氏の『企業参謀』が説く「戦略的思考力を持つ参謀」の本質は、トップに代わって冷徹な論理で構造的問題を整理し、意思決定の質を高めることにあります。トップの熱量に伴走しつつも、その前提に穴がないかを冷静に問い続ける役割。この参謀機能こそ、今の時代に不可欠な「組織のブレーキ」です。単なる意見役ではなく、計画に穴がないか、前提が崩れていないかをチェックする権限を、社内に公式に明示することが成功の鍵となります。
もし、人員の限られた中小企業で、社内にこのような役割分担をすることが難しい場合は、外部の専門家の目を借りるという方法も極めて有効です。
顧問税理士や外部のコンサルタントなどに、あえて「反対の立場から議論する役割(デビルズ・アドボケイト)」をお願いするのです。
経営者の強い確信(アクセル)を活かしつつ、それを客観的な仕組み(ブレーキ)で制御する。この両輪が揃って初めて、先の見えない時代を安全に、かつハイスピードで駆け抜けることが可能になります。
次回予告(最終回) ── フラットな組織の盲点と、コンサルタントの覚悟
これで組織を「アクセル(社長)」と「ブレーキ(参謀)」に綺麗に分ければ、すべてはうまく回る…。
そう思われるかもしれませんが、実際の現場には、さらなる罠が潜んでいます。 推進役と検証役の間に存在する、ある「致命的なギャップ」によって、この仕組みがまったく機能しなくなるリアルな盲点があるのです。
最終回となる次回は、【星野リゾートで痛感した「フラットな組織」の盲点とコンサルタントとしての覚悟】をお届けします。
私が前職の現場で肌で感じてきた「フラットな組織がうまくいく本当の条件」、そして中小企業のリアルな現場で求められる外部参謀の役割について語ります。ぜひ最後までお付き合いください!
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