クルージングヨット教室物語248
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「なんか、だいぶ追いつかれてきていませんか」
小島は、後ろのヨットのうち何艇かが追いついてきているのを確認して呟いた。
小島のその声に焦ってしまっているのはスピンの操作をしていた三浦だった。
「追いつかれて、追い抜かれてしまいそうなんですけど・・」
小島は、後ろから迫ってくるヨットを見ていた。
その声にますます焦り出してしまっていた三浦だったが、雪は彼女の焦りに気づいていなかった。
「なに、焦っているの?」
コクピットでラットを握っている隆が、サイドデッキの三浦に声をかけた。
「だって、なんか追いつかれているって話なので・・」
「気にするな。後ろは気にせず、焦らずにスピンをしっかり操作しな」
隆は、三浦に声をかけた。
「いや、追いつかれているのは、うららとかレース艇だから」
キャビン出入り口に陣取っている中村さんが三浦に言った。
「あの今、追いつかれてきているうららとかの集団は、船内だって何も無い、速く走るためだけに軽く作られているヨットの集団だから」
中村さんが説明していた。
「彼らのヨットには、どうしたって俺らのヨットは追い抜かれてしまうよ」
「そうなんですか?」
「うん。彼らのヨットは抜かれても仕方ないから諦めて大丈夫だから」
三浦は、中村さんの言葉に少し安堵していた。
「あ、追いつかれます」
小島が言った。
うららが、アクエリアスの走っている真横に追いつき、そのまま並走することもなく追い抜いていった。
「行ってしまった」
中村さんはレース艇だから仕方ないとは言っていたが、小島は少し残念そうだった。
「ごめんな。ヘルムが下手くそだから」
隆は小島に言った。
「え、隆くんのせいじゃないでしょう」
雪が隆に言った。
「そのうち、小島くんが上達して、うららにも負けないぐらいのアクエリアスのヘルマーになってくれよ」
「はい、頑張ります!」
小島は隆に答えた。
「レースとか好きなんですか?」
雪は小島に聞いた。
「いや、まだヨットに乗り始めたばかりだしよくわからないですが、嫌いじゃないかもしれないです」
「そうなんだ。それは頼もしいね」
雪が言うと、中村さんも嬉しそうだった。
「去年までアクエリアスもいっぱいクルーいたんだけど・・」
隆が小島に言った。
「今は中村さん以外誰もいなくなってしまったからさ。君らが頑張って立派なクルーになってあげてよ」
「はい!頑張ります」
小島は隆に答えた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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