「タックは、だいぶ慣れてきたか?」
隆は、アクエリアスのラットを握りながら、雪たちに聞いた。
「だいぶ慣れたかな」
「なんか、すごくよくわかりましたよ。タックだけだけど・・」
今年のアクエリアスのクルージングヨット教室生徒の小島が隆に答えた。
「お、わかったんだ。タックのやり方は」
隆は、小島たちアクエリアスの今年の生徒たちに言った。
「タックは、だいぶ完璧ですね」
小島以外の生徒たちも口々に隆へ答えていた。レーススタート前の短い時間で赤と緑のブイの間を6周してタックを何度もした後だった。
「タックを覚えただけでも良かったな」
隆は、アクエリアスの生徒たちに言った。
「君たち、アクエリアスの生徒さんたちの目標としては、クルージングヨット教室卒業までの期間にアクエリアスのヨットの乗り方を覚えて、卒業前には俺らラッコのメンバーが手伝わなくても、自分たちだけでアクエリアスでレースに参加できるようになろうな」
隆は、生徒たち皆に伝えた。
「そうだな。アクエリアスのメンバーだけでレースに出場できるようになろうな」
キャビン出入り口のところに腰掛けて司令塔している中村さんも、自分の生徒たちに話していた。
「それじゃ、そろそろスタート時刻だから本番でスタートしようか」
隆は、小島と雪にジブのウインチに就かせて、アクエリアスをスタートラインに向けた。
ブオオオオー!
レースのコミッティーボートのラッコからスタートの合図のホーンが鳴った。
「よし、スタートするぞ!」
隆は、ホーンと同時にスタートラインを越えた。
「え、もしかして、うちらって今一番なんですか?」
小島が雪に聞いた。
「そうだよ。今一番を走っているぞ」
中村さんが小島に答えた。
「すごいですね、アクエリアスって速いんですね」
「そうだよ。このままゴールまで一番を走り抜けような」
中村さんは、小島たちアクエリアスの生徒に伝えた。
「それは無理だろう・・」
隆は、途中まで言いかけて中断していた。
雪は一言も話さずに、ジブのウインチを回しながらジブの調整を必死にしていた。
「前のところに黄色いブイが見えるか?」
隆は、皆に聞いた。
「黄色い乗って、あのなんか展望台みたいな形をしたブイのことですか?」
「そう、あそこが最初のブイだから、あれをぐるっとタックして回るからな」
「了解です」
小島は、タック準備のため風上側のウインチに就こうとした。
「いや、まだ早いよ。ギリギリまではサイドデッキで身体を乗り出して、ヒールを殺しておいてくれるか」
隆に言われて、小島はサイドデッキに戻ると、横に身を乗り出していた。
「こうやると、ヨットって早く進むんですか?」
「そう、ヒールっていうんだけど、ヨットが風を受けて斜めになるだろう」
「はい」
「斜めになるよりも、ヨットは平らになっている方が速く走るんだ」
隆は説明した。
「だから、そうやってヒールが傾かないように一番風上で身を乗り出してヒールを殺すんだよ」
隆が言った。
「ヒールを殺すっていうのは、殺人じゃなくてヨットが傾くのを平らにするってことね」
雪が隆の説明を捕捉した。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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