クルージングヨット教室物語222
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「松下明子さん」
教壇の先生が呼んだ。
「はい!」
明子は、急に呼ばれて、少しびっくりしたように返事した。
「前に出てきてください」
返事はしたけれども、席に着席したままだった明子に先生は声をかけた。
「あ、はい」
席を立って、教壇のある教室の前方に向かいながら、明子は少しドキドキしていた。学生の頃も学校で結構な人見知りだった明子は、先生に刺されたり、前に出てきて何かしなさいと指示されるのが嫌いで、いつも目立たないようにしていたのだ。
「松下明子さん」
「はい」
教壇の前まで出てきて、再度自分の名前を呼ばれたので返事した。
「あなたの配属はラッコさんね」
先生は、自分の横に立っている女性のことを明子に紹介した。
「こんにちは」
麻美子は、先生に呼ばれて出てきた明子に挨拶した。
「あ、あの、こんにちは」
明子は、少しドキドキしながら、目の前の女性に挨拶した。
「それじゃ、これから乗る私たちのヨットを見に行こうか」
麻美子は、明子に言った。
「私たちのヨットって何ですか?」
「え、クルージングヨット教室にヨットを覚えにいらしたのでしょう?」
「はい」
麻美子は、香代の手を引きつつ、明子のことをラッコの仙台が置かれている敷地内まで案内した。
「これが、うちのヨット。船名はラッコっていうの」
麻美子は、明子に説明した。
「これって、お姉さんのヨットなんですか?」
「うん、そうね」
香代は、麻美子とつないでいた自分の手を外すと、船台に掛かっている脚立を掛け直してから登り始めた。
「彼女みたいに、脚立を登れる?」
麻美子は、脚立を登る香代の姿を明子に見せながら、聞いた。
「どうして、お姉さんのヨットに私が乗るんですか?」
「え、どうしてって、松下さんは、うちのラッコのヨットに配属されたのよ」
「ラッコのヨットに配属?」
明子は、麻美子の言うことがまだよく飲み込めていないようだった。
「私は、クルージングヨット教室にヨットを習いに来たんです」
「そうよね」
麻美子は、明子に答えた。
「だから、松下さんは、これからラッコに乗ってヨットを覚えるの」
「ラッコに乗って?」
明子は、麻美子に聞き返した。
「クルージングヨット教室って、あそこでやっているんじゃないの?」
明子は、さっきまでいたクラブハウスの建物を指差した。
「そうよ。あそこでお勉強したわよね」
「うん」
「あそこで覚えた、お勉強したことを思い出しながら、ラッコで乗って、ヨットの乗り方を覚えるのよ」
「そうなんですか」
明子は、麻美子に聞いた。
「あっちにいた男の人が先生だったけど、お姉さんも先生なんですか?」
「そうね、私も松下さんのヨットの先生になるのかな」
麻美子は、明子に答えた。
「先生なんだけど、お友達でもあるから仲良く楽しくヨットに乗りましょうね」
麻美子は、明子に話仕掛けていた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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