「メインセイルを上げるか」
隆は、ラッコのサイドデッキからラットを握っている香代に聞いた。
「はい」
香代が頷いたので、陽子や香織もサイドデッキにやって来て、メインセイルを上げた。
「ジブも出す?」
コクピットにいた雪が隆に聞くと、隆は香代の方を指差したので、雪は後ろを振り返った。
「うん」
香代が答えて、雪と瑠璃子がジブファーラーを解いて、ジブを出した。
メインとジブのセイルが風を孕んで、ラッコが走り始めたので、香代はエンジンを停止した。
「香代、おまえはヨットの操船は上手になって来たんだから、セイルを上げたりなんかする時には、ちゃんと周りの人に声をかけられて指示を出せるようにならないとだめだな」
隆は、ラットを握っている香代に行った。
「そうね」
麻美子は、横で操船している香代の頭を撫でながら、隆に頷いた。
「確かに、香代ちゃんって人に指示するの苦手かもね」
瑠璃子が先週、ジュニアヨット教室でのことを思い出しながら頷いた。
「子供たちに教えるの苦労していたよね」
香織も頷いた。
「でもさ、マストとか艤装するときに、香代ちゃんが割りかし先輩らしく子供たちに教えていたのを私は知っている」
陽子が隆に伝えた。
「そうなんだ」
「その姿を見たときに、いつも控えめな香代ちゃんが、ああ、そんな風に人に教えることもできるんだなって思ったもの」
「おお、そういう香代の姿って俺も見てみたかったな」
隆は、陽子に返事した。
「これから、クルージングヨット教室でうちに配属される子には、ぜひそうやって香代が教えている姿が見てみたいな」
「大丈夫、できるよね」
麻美子は、香代の横顔を眺めながら頷いていた。
「今日は、けっこう良い風が吹いていて、重たいラッコでもどんどん進んでいないか」
隆は、風を受けて滑るように進んでいるラッコのことを言った。
「だって、もう猿島の近くまで走って来てしまっているものね」
横須賀の猿島の真横まで来ていた。
「浦賀まで行けちゃうかも・・」
香代がラットを操船しながら、香織に言った。
「そしたら、保田の帰りに食べられなかったカレーを食べて行く?」
「うん!」
麻美子に聞かれて、香代は大きく頷いた。
「でも、お昼過ぎからクルージングヨット教室の生徒さんの配属でしょう」
香織が麻美子に言った。
「そうか。浦賀でお昼を食べている時間はないか」
「そしたら、観音崎まで行ったら、そこでUターンして横浜に戻ろう」
隆が言って、観音崎の灯台の前まで行くと、そこでタックをして横浜に戻った。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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