「お母さん、今日の帰りの車での隆の話を聞いた?」
麻美子は、保田から中目黒に戻ってきての夕食の時間に話していた。
「隆ったら、今のヨットだけじゃなくて、もう1艇ヨットを買いたいらしいの」
「え、どうして?まだ、あのヨットを買って1年ぐらいじゃないの」
お母さんは、娘の麻美子に聞いた。
「もう1艇は、レース艇にしてよっとレースに出場するんですって」
麻美子は、母に告げ口していた。
「お前たちの会社って、そんなに儲かっているのか」
お父さんが、麻美子に聞いた。
「そんなわけないじゃないの」
「なんだ、儲かってはいないのか?」
「それは赤字ではないけどね。従業員も50名ぐらいいるし、毎月の給料もボーナスも出せて、ちゃんと収支を黒字にはしているけど」
「ならば良いんじゃないか」
「2艇もヨットを所有したら、マリーナに払う停泊料だって今の倍になるし」
「そうなのか」
お父さんは、娘の麻美子から話を聞いた後、何か考え事をしていた。
「さあ、夕食にしましょう」
中目黒の麻美子家の夕食が始まった。
「隆くん、今日のクルージングはどうだったの?」
「横浜から千葉までの近場クルージングですけど、いつも通り楽しかったですよ」
隆は、麻美子のお母さんに聞かれて答えた。
「僕は、ラッコには乗らなかったんですけどね」
アクエリアスが中村さん1名だけだったので、2艇に分乗して乗ったことを話した。
「あら、それは寂しかったわね」
お母さんは、隆に答えた。
「あんたが、そのアクエリアスさんに乗ればよかったのに。そうすれば、隆くんは自分のラッコに乗れたんでしょうに」
お母さんは、麻美子に言った。
「私がアクエリアスに乗ったって何も手助けにならないじゃないの」
「いや、麻美子が香代とか陽子と乗るのも良かったかもしれないな」
隆は、お母さんのアイデアに賛同した。
「そうなの?」
「うん。他のヨットに乗ってみるのも勉強になるし、香代の上達になるだろうし」
隆は言った。
「隆くん、ヨットレース用の艇がもう1艇欲しいっていうのは本気なのか?」
麻美子のお父さんが隆に聞いた。
「え?いや、あったら面白いかもしれないって話だけですよ。そんな資金もありませんし」
隆は、思わず吹き出しそうになるのを抑えながら、慌ててお父さんに返事した。
「そうなのか」
お父さんは、隆に言った。
「いや、隆くんが本気ならば、もう1艇分のヨットの資金は、うちの貿易会社でなんとかしても良いかなと思ったのだが・・」
「お母さん、今の話を聞いた?」
麻美子が聞いたが、お母さんは唖然としていた。
「今の話だけ聞くと、お父さんの貿易会社ってものすごく景気が良くて、うちってめちゃ大金持ちの家に思えるんだけど・・」
「そうね。麻美子も佐藤家のご令嬢なんだから、お父さんに何かブランドのワンピースでも買ってもらうといいわ」
お母さんは、お父さんに聞こえるように嫌味っぽく言った。
「いや、そんな儲かっているわけではないが・・」
お父さんは、口をモグモグとさせて何か呟いていた。
それっきり、もう1艇ヨットを買うとか買わないとかって話も終わってしまっていた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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