「どうしたの?」
隆たちの声が聞こえたので、外に出てきた麻美子が聞いた。
「タコを捕まえたんだよね」
隆が麻美子に言った。
朝のお散歩に出かけていた隆と香代、香織に、見知らぬ少年と少女が一緒だった。
少年は、釣竿とバケツを手に持っていた。
「あら、タコさんだ」
麻美子は、少年の持っているバケツの中を覗いて、叫んだ。
「捕まえたんだよ!」
「私が捕まえたの!」
少女の方が、麻美子に向かって言い直していた。
「こっちの魚は、俺が捕まえたんだよ」
少年が、バケツの中の魚を指差しながら、麻美子に言った。
「そうなんだ」
麻美子は、バケツの中のタコを触りながら、少年たちに答えた。
「それで、これどうするの?」
魚も、タコも釣り上げられてだいぶ時間が経っているようでほぼ絶命していた。
「朝のお刺身にするの!」
少女が麻美子の肩に抱きつきながら大声で言った。
「お家で、お母さんに朝ごはんにしてもらうらしいんだ。捌いてやってよ」
隆が麻美子に言った。
「そうか、お母さんに朝ごはんにしてもらうんだ」
麻美子は立ち上がって、船内から出刃包丁を取ってこようとしていた。
「麻美ちゃん、これ」
「あ、ありがとう」
陽子が、既にギャレーから出刃包丁を持ってきてくれていた。
麻美子は、陽子から受け取った出刃包丁で、バケツのタコと魚を捌いてあげた。
「ごめんね。お嬢さんのタコちゃんのことバラバラにしちゃうよ」
麻美子は、タコを分解しながら、少女に話した。
「うん!食べられるように小さくしてね」
麻美子は、少女がタコのことを可愛がっているのかと思ってたのに、少女の方はタコには思い入れが全く無いようで、朝ごはんに食べることで頭がいっぱいのようだった。
「かわいそう?」
麻美子は、少女の顔を見ながら、タコをバラして小分けにしていた。
「ううん、だって食べるだけだもん」
少女の方は、麻美子にサバサバと答えていた。
「なかなか強者の女の子だったわね」
「ね、私の方が捌きながら、かわいそうに少女が水槽で飼ってあげられる方法ないかなって考えてたわ」
麻美子と陽子は、バケツの中の裁かれた魚とタコを持って、家に帰っていく少年少女の後ろ姿を見送りながら話していた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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