クルージングヨット教室物語168
Photo by Annie Spratt on Unsplash
「え、お1人で塗り直すんですか?」
「ああ、そうだよ。1人しかいないから、1人で塗り直すしかないからね」
中村さんは、麻美子に答えた。
アクエリアスは、横浜のマリーナのクレーンに載せられて、天高く上げられて空中にぶら下がっていた。
「1年ぶりの陸上だよ」
中村さんは、自分のヨットの船底を覗きこんでいた。船底には、たくさんの藻や貝、藤壺がびっしりと付いていた。
「先に落としますか?」
マリーナの職員が、中村さんに聞いた。
「はい、落とします」
中村さんは、貝落とし用のスクレイパーをマリーナの備品庫から持って来て、船底の貝や藻を落とし始めた。中村さん1人だったので、麻美子も香代と一緒に備品庫からスクレイパーを持ってくると、アクエリアスの船底を洗い始めた。
「すごいわね、この藻の数」
麻美子は、アクエリアスの船底の藻の多さに驚いていた。
「麻美ちゃん、何をやっているの?」
雪は、ラッコのデッキ上からアクエリアスの船底を貝落とししている麻美子の姿に気づいた。
「え、何?」
雪の声に、隆や陽子たちも、貝落とし中の麻美子に気づいた。
「何をやっているの?」
隆も、雪も皆、ラッコから下りると、アクエリアスの船底に移動した。
「うわ、すごいな。船底の汚れ方が」
隆も、アクエリアスの船底の姿に驚いていた。
「中村さん、1人で船底を掃除するんだって」
「1人?」
隆は、香織に備品庫からスクレイパーを持ってくるように頼んだ。
「え、1人で34フィートの大きさの船底を塗り直すって?それは大変だよ」
香織が持って来たスクレイパーを1本受け取ると、隆も貝落としを手伝っていた。香織や陽子たちラッコの皆もアクエリアスの貝落としを始めていた。
船底に付いていた貝や藻を落とし終わると、横浜のマリーナの職員は、クレーンを動かして、アクエリアスの船体を、マリーナに置いてある空き船台に載せた。
「このジェット水圧機で船底を洗い終わったら、船底塗料を塗るんだ」
隆は、陽子たちラッコのメンバーに説明しながら、ジェット水圧機でアクエリアスの船底の汚れを落としていた。
「塗料は、もうここに2缶用意はしてあるんだ」
中村さんは、麻美子たちに購入して来た船底塗料を見せた。
「やっぱり、これ1人で塗るの大変ですよ」
「今日って、ラッコで出航するの止めて、皆でアクエリアスの船底を塗らない」
「そうしようか」
隆は、皆に言った。
本日の出航は取り止めて、急きょアクエリアスの船底塗りをすることになった。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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