「平日の夜の横浜のマリーナって真っ暗なんだよな」
横浜のマリーナの駐車場に車が停まると、隆は車から降りた。
「本当に、真っ暗で誰も人がいないよね」
平日の夜の横浜のマリーナは、人がほぼいなくて寂しい場所だった。
「隆、ちょっと待ってよ」
麻美子は、マリーナ駐車場の出入り口のゲートを閉めながら、先を歩いている隆に声をかけた。
「え、なに?」
隆が立ち止まって、後方で駐車場のゲートを閉めている麻美子の方を振り返った。
「ちょっと真っ暗で誰もいないし怖いじゃん」
麻美子は、急いでゲートを閉め終えると、隆のところの走ってきた。
「ほら、1人で行ったら怖いでしょう」
麻美子は、隆に追いつくと、隆の腕を掴んだ。
「なになに?歩きづらいじゃん」
麻美子に腕を掴まれて、隆は歩きづらそうにしていた。
「歩きにくいって」
隆が麻美子の腕を離して、歩こうとしたが、麻美子はまた隆の腕を掴んだ。
「ちょっと、マリーナの敷地内に入るまでは一緒に歩いたって良いでしょう」
「まあ、別に良いけどさ」
麻美子は、隆の腕を掴み、隆は歩きづらそうにマリーナまで歩いていた。
「ゲートの番号って何番だったっけ?」
「知らないの?」
「知ってるけど、麻美子が開けてよ」
「私、両手空いていないもの」
麻美子は、両手で隆の腕を掴みながら答えた。
「なにそれ」
隆は、自分の服のポケットから手を出すと、横浜のマリーナのゲートを開けた。
「なんか、駐車場からマリーナまでの道、真っ暗で怖かったね」
ゲートからの扉を開いて、中に入ってから、背後のゲートの扉がカチャっと閉まると、麻美子がホッとしたように隆に言った。
「これで一安心ね」
麻美子は、掴んでいた隆の腕を離した。
「なんか両腕掴まれて、めちゃ歩きづらかったし、怖そうな表情している麻美子の顔がらしくなくて、めちゃ気持ち悪かったんだけど」
「なによ、その言い方」
麻美子は、隆の腕を何度も叩いていた。
「あれ、でも皆、まだ来ていないのかな?もしかして、雛祭りパーティーの日を間違えたか」
真っ暗のマリーナ敷地内で、隆は麻美子に聞いた。
「皆、来ているじゃないの」
船台の上に載っかっているラッコの船体からぶら下がっている陸電用のコードと船体の上の方に付いている窓から漏れてきている明かりを指差した。
「本当だ。もう皆、来ているんだ」
今日は平日の中日で、翌日も仕事があるので出航するわけにもいかないから、今夜だけ船に泊まって、明日は船からそれぞれ会社へ出勤予定だった。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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