クルージングヨット教室物語156
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ラッコのキャビンでは、白菜などの野菜類を切って、鍋が始まっていた。
ラッコは、フィンランド製のナウティキャット33というモーターセーラーだ。
デッキより一段高くなったパイロットハウス部分のメインサロンでは、麻美子や雪の田子メンバーに中村さんや松浦さんなどが座り、テーブルの上ではキムチ鍋がセットされていた。
一方、一段下がったところにあるダイニングテーブルでは、隆や陽子、香織などのメンバーが座り、テーブルの中央には、ミルク鍋が煮込まれていた。
「もう少し入れちゃいますか」
「少しピリッとした方が美味しいですものね」
中村さんが、阿部さんの味付けに賛同していた。
「少しピリッとして辛いかな」
「でも、お酒と一緒に食べるんだったら、このぐらいピリッとした方が美味しいよね」
麻美子も、阿部さんの味付けに賛同していた。
メインサロンの鍋が、大人な辛口な味なのに対して、ダイニングの鍋には、白くトロみがミルクでついており、甘めなお子様な味付けの鍋が出来上がっていた。
「美味しい!」
「甘くてトロみが良い味でているね」
陽子が、スープを一口飲んで呟いた。
「チョコパーティーはまだやらないの」
「待って、お鍋が、お昼を食べ終わってからやろうよ」
香織が、瑠璃子に言った。
「なんかさ、こんなにお鍋を食べちゃったら、チョコが入らなくなりそう」
「大丈夫、瑠璃ちゃんのお腹ならチョコは別腹でいくらでも入るから」
「そうだね」
少し小太りしている瑠璃子が、自分の腹を揺らしながら答えていた。
「そろそろ、おうどんを入れますか」
「日本酒に切り替えますか」
「お燗しますか」
メインサロンの鍋には、お米を入れておじやが終わって、今はうどんを入れていた。
「チョコパにするか」
「うん」
ダイニングの鍋は、野菜と肉だけ食べ終わると、さっさと鍋が片付けられてしまっていた。代わりに、チョコを溶かす用の鍋がカセットコンロには乗せられていて、湯煎でチョコが溶かされていた。
この溶けたチョコを型に入れて、もう1回新しい形状のチョコに生まれ変わらせるのだ。
「犬の形のチョコを作ろう」
「大小のお皿を裏返して、ボウルにセットしてチョコファンテンやらないか」
「どうやるの?」
隆が、深めの大皿の中に大中小の順番で裏返したお椀を積み立てた。
「これで、上からチョコを垂らせばできないか」
「モーターで回っていないけど、チョコファンテンらしくなってるね」
プリッツをチョコファンテンの中に浸しながら、香織が言った。
「あら、おもしろそう」
麻美子がパイロットハウスから降りてきて、チョコファンテンに気づいた。
「麻美ちゃんも食べる?」
陽子が、麻美子にプリッツを手渡した。
「こういうのが、バレンタインパーティーなのね」
チョコを浸したプリッツを食べながら、麻美子が言った。
「私の頃なんて、女の子が男の子にチョコをあげる以外のバレンタインって無かったから、こういうバレンタインパーティーは楽しいわね」
麻美子が、陽子に言った。
「麻美ちゃんって、男の子にチョコをあげたりしたんですか?」
「うん、一応はしたわよ」
麻美子は、瑠璃子に答えた。
「あ、でも、高校生の頃とかはチョコ持ってくるの学校で禁止だったりしたから、大学生になってからが初めて男の子にチョコあげたかな」
「誰にあげたの?」
香織が、麻美子に聞いた。
「誰にあげたっけな。この人とか」
麻美子は、隆のことを指差していた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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