「左舷側で着岸するよね！？」
阿部さんがバウのクリートに舫いロープを準備しながら、香代に言った。
「ほら、香代ちゃん。左舷側で良いか聞かれているよ」
バウの阿部さんとラットを握っている香代の中間にいた麻美子が、香代に聞いた。
「うん」
香代は、麻美子に頷いた。
「阿部さん、左で良いみたいです」
間にいる麻美子が、香代の言葉を中継していた。
「ほら、香代！どっちに泊めるのか、しっかりお前が指示を出さなきゃ」
隆が、香代に注意した。
「大丈夫よ、さっき私が左側って代わりに指示を出したんだから」
陽子がバウから戻ってきて、隆に伝えた。
「優しいお姉ちゃんがいっぱいいて良かったわね」
「うん」
麻美子に言われて、嬉しそうに香代が頷いた。
「本当に、ラッコの家族は皆、仲が良くて良い家族だよね」
中村さんが羨ましそうに答えた。
「よし、バウの舫いは着岸完了！」
阿部さんが、舫いロープを持ったまま、貯木場のイルカのプールに飛び移ると、舫いロープをイルカのプールに付いている金具に結びつけた。
「誰か、スターンの舫いをお願い」
香織の声に、香代は麻美子にラットを託すと、スターンからイルカのプールに飛び移った。
「舫いをちょうだい」
香代からラットを受け継いだ麻美子が、スターンのクリートに結ばれている舫いロープを香代に投げた。香代は、麻美子から受け取った舫いロープをイルカのプールの金具に結んだ。
「麻美子さ、なんか仕事してますって感じでラットを握っているけど、もう既に香代が着岸し終わっているし、あんまり役立っていないな」
「そうだね、私も、自分でラットを握りながらそう思っていた」
隆に言われて、麻美子は返事した。
「舫いロープの長さの調整もしてあるし、スプリングのロープも取ってあるし完璧だな」
松浦さんは、ラッコのクルーたちの動きを見て、感心していた。
「それじゃ、寒いしキャビンの中に入ろうか」
皆は、ぞろぞろとラッコの船内へ入った。
いつの間にか、中村さんと阿部さんが先に船内に入っていて、皆を出迎えていた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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