ジュニアヨット教室物語69
Photo by Haotian Jiang on Unsplash
「危ないから、こっちに来ていなさい」
洋ちゃんは、車の下に潜り込んでいたウサギのクロを連れ出した。
「ここの中に入って、ここで遊んでいなさい」
家から庭に出る出入り口の脇のところに大きな犬小屋があるので、その中にクロのことを入れた。洋ちゃんの家には、昔大きな毛むくじゃらな犬がいたのだ。
「犬のにおいがするかもしれないけど、車の下よりも安全だからね」
洋ちゃんは、クロに話しかけた。
クロは、昔いた大型犬の犬のにおいを嫌って、いつも車の脇にいるのだった。でも、洋ちゃんと一緒だと安心するのか、犬小屋の中でも平気で過ごしていた。
お父さんは、念には念を入れて、車の屋根の上のミニホッパーを縛っていた。
「よし、出かけようか」
「ごめんね、1人でお留守番で」
洋ちゃんは、犬小屋のクロに話しかけると、車に乗りこんだ。
「クロちゃん、最近は犬小屋でもだいぶ平気に過ごせるようになって来たわね」
「うん、ボスのにおいが消えてきたのかも」
洋ちゃんは、お母さんに答えた。
ボスとは、昔いた大型犬の名前だった。亡くなってからもう何年も経っていた。
「ヨット乗りに行くところって、けっこう遠いの?」
「磯子だから、そんなには遠くないさ」
お父さんは、運転しながら洋ちゃんに答えた。
「磯子だから、いつも日曜日にヨット教室へ行っているのと同じぐらいの所よ」
お母さんが、洋ちゃんに言った。
洋ちゃんは、お父さんの運転する車の中から外の景色を眺めていた。
「あれ、ここって」
なんか見覚えのある場所を走っていることに気づいた。
「ここって根岸じゃないの?」
「そうだよ」
そこは、いつも根岸駅を降りてから横浜のマリーナまでずっと歩いている大通りだった。
「この先に橋があって、そこを左折すると横浜のマリーナがあるんだよ」
「そうだね」
お父さんは、洋ちゃんに答えながら、いつも洋ちゃんたちがヨット教室へ向かう時、歩いて渡っている橋を越えると、相鉄ローゼン、ヤマダ電機のところを曲がって走っていた。
「そうそう、このまま真っ直ぐ行くとマリーナだよ」
洋ちゃんが答えたが、お父さんは真っ直ぐは進まずに、途中で右折してしまった。
「え、曲がらないよ。真っ直ぐだよ」
「お前の通うヨット教室は真っ直ぐかもしれないけど、今から行くところは真っ直ぐではないんだよ」
お父さんは、運転しながら答えた。
ずっと直進して行き、磯子駅の方角へと向かっていた。
「これって、佐々木の住んでいる家の方角じゃないかな」
洋ちゃんは、ヨット教室まで徒歩で通っている佐々木の家の方向だと気づいた。ジュニアヨット教室ではなくクルージングヨット教室の頃からの読者の方ならば、雪の住んでいる家の方向と説明したほうがわかりやすいかもしれない。
「こっちの方角なんだ」
洋ちゃんが車の走って行く方向を確認しているうちに、車は磯子駅を越えて、さらに先へと進んでいってしまっていた。
「けっこう遠いじゃん」
ヨット教室に通っていて、見覚えのあった場所からもどんどんと車は離れて行ってしまったので、後部座席に深く座り直すと、洋ちゃんは呟いた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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