ジュニアヨット教室物語55
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「なんか、大分わかってきた」
洋ちゃんは、ミニホッパーを奏薦しながら、そう感じていた。
メインシートを引いて、ティラーを操作しながら、うまいことヒールを殺していれば、そんなに沈しなくても、普通にヨットが走っていられるようになっていた。
沈とは、ヨットがヒールして真横に倒れてしまうことだ。
ピ、ピピピー
他のヨット教室の生徒たちは、OPヨットに乗っているので、先生の笛の音に合わせて、周りの生徒たちの乗るヨットとレースで競い合いながら練習していた。
洋ちゃんの乗るミニホッパーは、ヨット教室に1艇しかないので、他の生徒と競い合って練習することはできなかった。
片桐一郎も、本当はミニホッパーも何艇かヨット教室で購入して、身体の大きい中学生の生徒たちには、ミニホッパーに乗せて練習させたかった。
小学生の生徒たちにはOP,中学生にはミニホッパーで練習させるのを理想とはしていた。
しかし、OPのヨットにくらべて、YAMAHA製のミニホッパーは1艇の価格が高く、まだまだ始まったばかりの横浜のマリーナのジュニアヨット教室にとっては予算が足りなかった。
「もう少し、ミニホッパーの数もあったらな」
片桐一郎は、ミニホッパーを上手に乗りこなせるようになってきた洋ちゃんの姿をボートの上から眺めながら、考えていた。
佐々木や小林、今日から入ったばかりの松田、そして自分の息子の二郎たち中学生にも、ミニホッパーに乗せてやりたかった。
「そうしたら、スタートゴールの笛の合図で、まずは足の速いミニホッパーがスタートして行き、その後にOPの連中がスタートしていくという練習ができるのにな」
片桐一郎は、他の先生たちに話していた。
片桐先生は、そうやって競い合っていくことで生徒たちの上達が早くなっていくと考えていたのだろうが、洋ちゃんは、特に誰かと競わずに、だらだらとミニホッパーで海を乗っていられるのが、ものぐさの自分に合っていると感じていた。
「レースしなくて良いから面倒くさくないな」
ミニホッパーに乗りながら、洋ちゃんは思っていた。
OPに乗っていた時は、周りの生徒たちとレースしあわなければならず、面倒くさいなと思いながら乗っていたのだ。レースしている時は良いのだが、練習が終わって、マリーナに戻ってきたときに、あの子が優勝、あなたは2位とか色々順位を気にされるのが面倒だった。
「今日は、片桐が速かったな」
「あと、もう少しで追い抜けたのにな」
案の定、午後の練習が終わって、マリーナに戻ってくると、佐々木や片桐二郎たちは、自分たちの乗ったヨットをホースで洗い、片付けながら話し合っていた。
「洋ちゃん、ぜんぜんレースに参加していないよな」
佐々木は、ミニホッパーを洗っていた洋ちゃんに言った。
「ああ、いちいち速いとか遅いとか先生に言われなくて済むから楽だよ」
「確かに、それはあるかもな」
佐々木は、洋ちゃんに答えた。
「来週は、佐々木がミニホッパーな」
2人の話を聞いていた片桐一郎は、佐々木に言った。
「俺は、来週はまたOPですか?」
「そうだな、たぶん今日ずっと見にホッパーに乗っていた感覚が活きて、来週のOPは、もっと上手に乗れるようになっているはずだぞ」
片桐一郎は、洋ちゃんに言った。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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