ジュニアヨット教室物語37
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「速かったですね」
健ちゃんは、自分の目の前の席でお弁当を食べている愛菜に話しかけた。
「え、そうね」
愛菜は、健ちゃんにヨットレースのことを言われて、嬉しそうに答えた。
「ずっと、1番先頭を走っていたのに、ぜんぜん気づかなかったですよ」
「え、先頭を走っていたの?」
愛菜は、健ちゃんがレースの時にどこら辺を走っていたかぜんぜん気づかなかったでので聞き返した。
「ええ、途中まで真ん中辺だったのですが、ブイを周ってから先頭を走ってました」
「そうなの?先頭って私たちしかいなかったと思ったけどな」
愛菜は、健ちゃんに聞いた。
「健ちゃん、今日の昼はさ、外のプールサイドで食べない?」
佐々木たちとトイレに行っていた洋ちゃんが戻ってきて、健ちゃんに言った。ちょうど、健ちゃんがバッグから自分のお弁当を出して、愛菜たちの食べているテーブルの上に広げようとしているところだった。
「あ、もう食べ始めていたんだ」
それを見て、洋ちゃんは健ちゃんに答えた。
「早く食べに行こうぜ」
「俺、もうお腹ぺこぺこだよ」
佐々木や片桐二郎が、洋ちゃんに言った。
「良いですよ。僕は、ここで食べてますから、洋ちゃんはプールサイドで食べてきてください」
「そう、じゃ、プールで食べてくるわ」
洋ちゃんは、お弁当を食べるために、佐々木たちと一緒に表へ出ていってしまった。
「え、洋ちゃんと一緒なの?」
「ええ。幼馴染みで、ずっとヨットも一緒に乗ってました」
「そうなんだ」
「あいつと一緒に乗っていたんだ」
愛菜は、健ちゃんに答えた。
「お姉ちゃん、私の人参も食べて」
横でお弁当を食べていた由佳が、愛菜に自分の分の弁当の人参を差し出した。
「駄目だって、人参もちゃんと食べなきゃ!目をギュってつぶって食べちゃいな」
愛菜は、妹に命令した。由佳は、目をつぶって姉が箸で差し出した人参を食べていた。
「そうか。沖の方の海面を集団で走っていたヨットの中に健ちゃんもいたんだ」
「ええ、洋ちゃんのヨットでメインシートを持っていました」
健ちゃんは、愛菜に言った。
「そうなのね。ブイを周った後に皆、沖の方に走って行ったでしょう」
「ええ」
健ちゃんは、愛菜に答えた。
「なんで、沖の方に行ったのかなって不思議だったんだ。だって、今日の海は、風向きと潮の流れを考えると、どう考えても陸よりの海面の方が絶対に速かったじゃない」
「え、そうなんですか?」
「うん。そのこと分からなかったんだ」
「ぜんぜん分からなかったです。だって、先週にヨットって初めて乗ったばかりですもの」
「そうなのね」
愛菜は、健ちゃんに答えた。
妹の由佳が重たそうにOPの船体を持ち上げていたので、手伝ってあげようと洋ちゃんが声をかけた時には、気が強くてけっこう雑に扱われてしまっていたが、健ちゃんとの相性は良いみたいだ。
その後、お弁当を食べ終わった後も、お昼休みが終わるまでずっとテーブルで愛菜と健ちゃんは、仲良くお喋りをして過ごしていた。
「愛菜ってヨットのことを色々知っていてすごいんですよ」
午後、また洋ちゃんと一緒にヨットへ乗った時、健ちゃんは、洋ちゃんに話した。
「僕らと違って、先週じゃなくずっと以前からお父さんのヨットに乗っていて、ヨットのことを色々知っているから勉強になりますよ」
愛菜のお父さんは、横浜のマリーナに40フィートのでかいセーリングクルーザーを所有していて、娘たちのことも溺愛していて、毎週のように娘たちをヨットへ連れてきて一緒に乗っていた。
ヨットの船名も溺愛する娘たちから取って「愛菜由佳」と名付けていた。
「そうなの?」
「風のこととか、海の潮の流れの読み方とか」
「そうか、でも俺は、あの女ってちょっと苦手だな」
洋ちゃんは、健ちゃんに答えた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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