「スターボード!」
佐々木は、前からやって来た片桐二郎の乗るヨットに、大声で叫んでいた。
「え、仕方ない」
片桐二郎は、前から突っ込んで来た佐々木のヨットに気づき、慌ててタックして避けた。先週、ヨットレースを始める前に、片桐先生が説明してくれたヨットレースのルールだった。
「スターボード!」
その向こう側では、小林の乗るヨットが、洋ちゃんのヨットに対して叫んでいた。
「タックするよ」
「いつでも大丈夫ですよ」
洋ちゃんは、メインシートを操作している健ちゃんに言うと、ヨットを左にタックさせた。
「スターボード!」
「シモー!」
風下側を走っていた江口のヨットは、風上側にいる小林のヨットに避けろとばかりに叫んでいた。
先週、初めてのヨット教室で覚えたばかりのヨットレースのルールだったが、子供たちは早速、そのルールをレースに使いこなしていた。
「あ、10分前の笛の音が鳴りました!」
健ちゃんは、ボートの上の片桐先生が吹いた笛の音に気づいて、洋ちゃんに伝えた。
「了解!」
洋ちゃんは、ヨットのラダーを操作しながら、健ちゃんに答えた。
「スターボード!」
また、前方からやって来た佐々木のヨットに声をかけられた。
「はいはい、スターボード、スターボードうるさいよ」
洋ちゃんは、独り言を呟きつつ、タックして佐々木のヨットを避けていた。
「なんか、あっちこっちでスターボードのかけ声が飛び交っていますね」
健ちゃんも、洋ちゃんに言った。
子供って、覚えたての言葉は、すぐ使いたがる。
「5分前です」
健ちゃんは、ボートの上の片桐先生の笛を聞いて、洋ちゃんに伝えていた。
「了解!その向こうでタックをしたら、風下方向へ抜けてからスターtラインに向かうよ」
「わかりました」
洋ちゃんは、ちょうどスタートの時刻に合わせて、ピッタリスタートラインを越えられるように、タイミングを合わせながら、ヨットを走らせていた。
「あと1分前!」
健ちゃんは、自分の腕時計を確認しながら、洋ちゃんに伝えた。
「タックします!」
洋ちゃんは、健ちゃんに伝えつつ、ヨットを方向転換させた。
「よし、このまま走らせれば、ぴったしスタートと共にスタートラインを越えられる」
また、先週のヨットレースの時のように、スタートダッシュで1番に飛び出せる。
「10秒前!」
健ちゃんがカウントダウンする。
「3秒前!」
健ちゃんは、腕時計の秒針とにらめっこしていた。
「スタート!」
健ちゃんの声と、ボートの上の片桐先生の笛の音と同時に、またピッタリにスタートだ。
そう思いつつ、スタートラインを越えようとしていた時、左端のスタートライン、片桐先生の乗っているボートの風下側から片桐二郎のヨットが出てきた。
「水をくれ!」
片桐二郎に言われて、洋ちゃんはラダーを操作して、片桐二郎に道を譲ってやるしかなかった。
先週のヨットレースでは、誰よりも早くスタートダッシュして、そのままトップで優勝できてしまっていたが、今回は他のヨットもスタートの時間に遅れることなくスタートしていた、
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
横浜のマリーナ クルージングヨット教室生徒募集中!