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クルージングヨット教室物語139

「おはよう、寒いね」

隆は、両手をこすり合わせながら、陽子に挨拶した。

「今日って、でも割と最近としては暖かいほうよね」

香織が、隆に言った。

「そうか、けっこう寒いけどな」

隆は、こすり合わせていた両手をポケットの中に突っ込んでいた。

「おはよう!」

「おはよう、この寒空の中、半ズボンで来ている子がいるよ」

隆は、香代のはいているショートパンツを指差していた。

「え、ちゃんとショートパンツの下にタイツはいているよ」

「香代ちゃんは若いし、タイツって暖かいものね」

香織が言った。

「身体を動かせば暖かくなるよ。セイル準備しよう」

陽子が皆を誘って、ラッコの出航準備に行った。

「身体を少し動かせば、若さですぐポカポカになるよね」

「そうだよね」

陽子と香織は話していた。

「もうあまり若くない人としては、少しぐらい動かしてもポカポカにはならないんだけど」

2人の後について歩きながら、麻美子が言った。

「麻美ちゃんがもうあまり若くないかったら、私はどうなるのよ」

麻美子や隆より少しだけ年上の雪が言った。

「雪ちゃんは元気だから」

船台の上のラッコに上がると、出航準備を終えて、マリーナの職員にクレーンで下ろしてもらえるようにお願いして来た麻美子だった。

横浜のマリーナ職員は、クレーンを動かして、ラッコを水面に下ろしていた。

「お、出航するヨットがあるじゃん」

寒いので、クラブハウスの前に置かれている椅子に腰掛けて、ずっと雑談していたうららの松浦さんや市毛さん、ステラマリスの阿古さんたちが、クレーンで降ろされているラッコの船体に気づいた。

「なんか呼んだ!?」

松浦さんたちは、ちょうどクレーンで水面に降ろされたばかりのラッコの側にやって来た。そこには、隆たちと一緒に、水面に降りたばかりのラッコに乗ろうとしていた麻美子がいた。

「え、別に呼んではいないけど・・」

「なんか呼んだでしょう?」

松浦さんが、にっこりと笑顔で麻美子に再度聞いた。

「呼ばれた気がしたんだけどな」

松浦さんと一緒に来た阿古さんも、同じことを麻美子に聞いた。

「乗りますか?」

ラットを握っていた隆が、コクピットから松浦さんに聞き返した。

「うん、やっぱ呼ばれてたでしょう」

「そうですね」

隆は苦笑しながら、松浦さんに答えた。

横浜のマリーナにヨットを保管しているオーナーたちは、寒くなって来ても一応、横浜のマリーナには毎週末、顔を出すのではあったが、寒いもので自分のヨットは出さずに、よくクラブハウスの暖房の前でお喋りして過ごしていた。

そんな中、どこかのヨットが出航する姿が見えると、

「呼んだ?」

と、そのヨットに近づき、自分のヨットは出さずに、そのヨットの出航に便乗させてもらうのが、寒い時期のヨットオーナーたちの常になっていた。

今週は、ラッコが出航するところを見つかってしまったので、ラッコが今週来ていたヨットオーナーたちの相乗りとなってしまったのであった。


作家プロフィール

主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など

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