「なかなか揃わないわね」
麻美子は、テーブルの上のビンゴカードの数字を開けながら呟いていた。
「え、麻美ちゃん、何枚持っているの?」
雪は、自分のビンゴカードを開けながら、麻美子に聞いた。
「私のは、これ1枚だけなんだけど。こっちが隆、これ香代ちゃん、瑠璃ちゃん、陽子ちゃん、香織ちゃんのでしょう」
左から順番に、ビンゴカードを指差しながら、雪に答えていた。
「皆、なんか当たらないから飽きてしまったみたいで、スイーツコーナーにデザート探しに行ってしまったのだもの」
麻美子は、雪に答えた。
「皆、自分の分のカードを麻美ちゃんに渡して行っちゃったんだ」
雪は、麻美子が皆の分の数字を開けている姿に吹き出してしまっていた。
「当たった」
麻美子は、ビンゴになったカードを見て言った。
「瑠璃ちゃん、当たったよ」
皆がスイーツから戻って来たので、瑠璃子に当たりのカードを手渡した。
「やったー!」
瑠璃子は、自分のビンゴカードを持って、ステージの景品が置かれているところまで行って、スタッフから景品をもらって帰って来た。
景品は、オイルスキンの上着だった。
「お、この間、マイカル本牧まで買い物に行って、無くて買えなかったやつじゃん」
隆は、瑠璃子がもらって来たものを見て、言った。ヘリーハンセン製ではなかったが、日本のYAMAHA製のオイルスキンのグリーン色の上着だった。
「ね、この上着を参考に、皆の分も揃えて、ラッコ全員のお揃いの合羽にしたら」
麻美子は、皆に言った。
「なんで、扇子なんか仰いでいるの、あんた暑いの?」
クリスマスパーティーが終わった翌日、真冬なのに麻美子が実家で紫色の扇子を自分に向かって仰いていると、お母さんに聞かれた。
「え、この扇子ってニューグランド製なのよ」
麻美子は、大事そうに扇子を抱えながら、お母さんに言った。
「そうなの?ニューグランドってホテルでしょう。扇子なんて作っているの」
「わからないけど、ニューグランドのお土産屋さんで売っていたの」
「へえ」
お母さんは、麻美子から扇子を見せてもらいながら答えた。
「それほど高級そうには見えないけど、柄のセンスは良いわね」
「そうでしょう。何種類かあったんだけど、これが一番綺麗な柄してたかな」
「そうなの」
お母さんは、嬉しそうに扇子を抱えている麻美子を見て呟いた。
「なんかさ、これって隆が買ってくれたんだよね」
「そうなの」
「私、隆からプレゼントもらうなんて初めてだよ」
「え、あんたは、隆さんからプレゼントもらったこと一度もないの?」
「ないよ。大学生の頃から知り合っているけど、今まで一度も隆からなんかもらったことなんてないよ」
「あらら」
お母さんは、娘の麻美子を見て苦笑していた。
「隆に、隆からプレゼントもらうの初めてだねって言ったら・・」
「言ったの?」
「うん。そしたら、物質的なものをプレゼントしたことは一度も無いかもしれないけど、物質的なもので無いものならば、色々なものをいくつもプレゼントしているですって」
麻美子は、お母さんに答えた。その日の夜、夕食の時、お母さんやお父さんのいる前で、隆に物質的で無いものって何か聞いたら、
「え、いろいろプレゼントしたじゃん。愛情とか」
と、隆は麻美子に答えていた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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