「温泉は、またお盆休みに大島は来るから、その時にしようか」
隆は、皆に言った。
「そうしましょうね」
温泉の受付から出てきた麻美子も、隆に賛成した。懐石料理屋でのお昼を終えた後、すぐ近くの温泉に入ろうと来てみたのだが、混雑していて入れなかったのだ。
「次は、どうしますか?」
「どうしようか、予定では牧場にでも行ってみる予定だったんだけど」
運転席の隆に聞かれて、麻美子は答えた。
「それじゃ、牧場の前だけ通って、大島の中心街の元町でも行ってみますか」
車は、大島北端にある大島牧場の横を通り過ぎてから、島の中心地である元町港を目指した。
「なんか小型の飛行機が飛んでいる」
「牧場の近くに、島の空港があるからね」
隆が答えた。
「え、大島って空港なんてあるんだ?」
「あるよ。東京の調布から大島まで飛行機で来ることもできるんだ」
隆は、瑠璃子に聞かれて、返事した。
「ヨットだと、一晩じゅう掛かるのに、飛行機なら1時間で東京から飛んでこれるよ」
「早い、飛行機で帰った方がいいじゃん」
雪が、隆に言った。
「そうだね。空港まで送るから、飛行機で帰るか?」
「え、ううん。明日、ヨットで帰るよ」
一瞬、頷きそうになりながらも、慌てて隆に否定した雪だった。
「じゃ、元町港に行こうか」
隆は、車でそのまま海沿いに下りていき、元町港へ出た。
「観光船が泊まっている」
元町港には、ジェット線が停泊していた。
「熱海から大島まで走っている観光船だよ、あれに乗って熱海へ行けば、そこから新幹線でも帰れる」
「そんなに、私のことをヨットから下ろしたいの」
飛行機やら電車で帰ろうとする隆に、雪はいった。
「いや、別にそんなことはないよ」
皆は、元町港の駐車場に車を入れると、港内の待ち合わせ室の中を見て、周っていた。
「東京の竹芝からも船がきているんだね」
香代は、麻美子と話していた。
「街中を歩いてみようよ」
瑠璃子が提案して、皆は元町の街中を歩きに出かけた。といっても、ほんの少し行っただけで、元町の商店街は終点になってしまった。
「小さな町」
「大島の中心っていうから、もっとお店とか色々あるのかと思った」
瑠璃子が言った。
「波浮の港と同じぐらいしかお店の数も無いんじゃないの」
「でも、スーパーとかもあるだろう」
「スーパーというか、いろんな食料品が揃っているお店・・」
陽子が、隆の言った言葉を訂正していた。
「まあ、すぐそこにジェット船も走っているし、何か欲しければ、熱海まで出れば何でも揃うしな」
「そうだよね、自然がいっぱいあるところに住めて、あれに乗って熱海まで行ければ便利だよね」
陽子は、隆に賛同した。
「お盆休みに行くけど、新島とか式根島とも大島の雰囲気はぜんぜん違う」
「新島とか式根島っていうのは、どんな島なの?」
瑠璃子が聞いた。
「そうだな、わちゃわちゃしていて大島とは全く違うよ」
隆は、瑠璃子に答えた。
「わちゃわちゃしているの?」
「うん。わちゃわちゃとしか言いようがないな、あそこは」
「わちゃわちゃって、どんな所なのだろう?お盆に行くのが楽しみ」
麻美子は、隆に返事した。
「そろそろ、波浮に戻ろうか」
皆は、車に乗って、元町の街を後にして、波浮港へと戻っていった。