Draper University Hero Training 2018 Fall Programでの1週間の経験から感じたシリコンバレーのアントレプレナーシップ
世界中から起業家が集まる場所シリコンバレー
みなさん、こんにちは。私は今アメリカのシリコンバレーにあるDraper Universityという起業家養成のプログラムに参加しています。このDraper UniversityはベンチャーキャピタリストであるTIm Draper氏が立ち上げたアントレプレナーシップを学ぶ私塾です。
TIm Draper氏はこれまでBaiduやSkypeへの投資に参加し、Draper, Gaither & Andersonというベンチャーキャピタルや、Draper Networkと呼ばれる世界中のDraperの名を冠するベンチャキャピタルネットワークを築きました。
そのDraper氏が運営しているアントレプレナーシップを学ぶための大学がこのDraper Universityです。今年は世界中から80名近い参加者がここサンマテオに集まっています。これは過去最多の規模だそうです。
メンバーの内訳はだいたい半分がアメリカ人、そして残りの半分が世界中から来ています。そして10数人はアリゾナ州立大学のビジネス専攻から、20人くらいはすでに自分のビジネスを持っている若手経営者、その他、銀行などを辞めて起業のために動いている人やベンチャー起業勤務の人などが集まっています。
年齢も18歳から35歳位までかなりバラバラですが、おじさんでも積極的に参加できるような空気感があります。このような環境で世界中から起業、そして仲間を求めて人がやってくることを肌で感じています。
トライすること、常識を疑うこと、10倍良くすること
Draper Universityには学校の宣誓があります。この宣誓を毎日全員で音読するのですが、何回読んでもエネルギーを感じます。以下の日本語訳は2014年に参加されたSHIFTさんのブログから引用させていただきたいと思います。
I will promote freedom at all costs.
いかなる犠牲を払ってでも自由を促進する。
I will do everything in my power to drive, build, and pursue progress and change.
持てる力全てを尽くし、進歩と変化を追求し、積み立てていく。
My brand, my network, and my reputation are paramount.
自身のブランド、ネットワーク、評判はとても重要だ。
I will set positive examples for others to emulate.
他の見本となるような前向きな実例を示す。
I will instill good habits in myself. I will take care of myself.
良い習慣を付け、自分を大切にする。
I will explore the world with gust and enthusiasm.
ものすごい勢いと情熱で世界を駆け巡る。
I will treat people well.
人を大切にする。
I will make short time sacrifice for long term success.
長期的成功のために短期的犠牲を厭わない。
I will pursue fairness, openness, health and fun with all that I encounter. Mostly fun.
出会う人・もの全てに正直で、開放的で、健康で、ワクワクする。ほとんどワクワク。
I will keep my word.
約束を守る。
I will try my best to make reparation for my digressions.
脇道にそれた時はしっかりと埋め合わせをする。
すべてエネルギーあふれる言葉ですが、個人的に「Mostly fun」というところが好きです。自分を信じて良い心がけをもち、力を存分に発揮し、人を大切に、常にThink Bigでしっかりとやり遂げる。そして、何よりも自分を大切にして、楽しむこと。
起業家にはライフワークバランスなんてものはないですが、精神的に参ってしまってはなりません。夜遅くまで無理して働くことで、短期的には成果が出たとしても、大事なときに休養が必要になってしまっては、結果的にパフォーマンスが悪くなってしまいます。
決して「スタートアップだからこうあるべきだ」というのではなく、個性やアイデアを認めることが大前提にあり、それらを世界的なスタートアップに高めていくために何が足りてないのか、どうしたらいいのかを自分で考えるということにベンチャーキャピタリストも一番の重きを置くのです。
起業家養成の学校に意味はあるのか
Draper Universityで何を学べるのでしょうか。起業家精神を学ぶことはできるのでしょうか?
正直、私は起業というものは考え・動いてなんぼなので「大学」に行く必要はないのではないかと考えていました。確かに時々ですがあまり自分に入ってこない内容もあります。しかし、今最初の1週間を終えてみてやはりここに来てよかったと思いました。
Draper Universityはビジネススクールではありません。「アントレプレナーシップを身につけるインテンシブコース」と言ったほうが良いでしょう。人によっては「サマースクール」と表現するように5週間、毎日クラスメイトと共に時間を過ごしながら、講義を聞いたり、チームで課題を行ったり、エクササイズをしたりします。
それだけであれば果たして来るだけの価値があるのか。Draper Universityはどんなメリットがあるのか。この質問に答えることは難しいですし、あまり意味がないと思います。スタートアップ自体が既存のものではなく、未来を作るアイデアから始めるものであるならば、既存の尺度で捉える「メリット」という考え方自体を変えなければならないでしょう。
それよりも、著名な起業家やキャピタリスト、アーティスト、TEDプレゼンター、アクティビティ、チームワーク、普段の参加者との会話、シリコンバレーの空気、町並みなどなどのこれまで目にしたこともない、耳にしたこともない体験から何を掴み取るか。自分の価値観に落とし込めるかが大切ではないかと思います。
Draper Universityは起業家に必要であるとTim Draperとベンチャーキャピタリスト達が考えている視点・能力を学べるようにデザインされています。ただそれだけが特徴であり、メリットであると言ってもいいでしょう。
ですので、あまり内容について多くを説明するつもりはありません。しかし、私という視点から学びになるなと感じていることはあります。
私にとって一番楽しみにしているのは、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストの前でピッチする経験です。実際に投資を受けられるのは当然一握りです。それでもシリコンバレーで数百億円〜数千億円のベンチャキャピタルファンドを運営する一線のキャピタリストの前でピッチできる機会はそうありません。それだけで私にとっては大きな価値だと思います。
ただ、やはり思うところはなくはないのでそのことについては最後に書くことにします。
Y Combinatorやビジネススクールとの違い
Draper Universityの最後にはベンチャーキャピタリストの前で2分間のピッチをするイベントがあります。ここで評価を得られれば投資を受けるチャンスはありますが、実際はまだアイデアベースのかなりアーリーステージなのでこの場で決まることはあまりないようです。
ポール・グレアム氏のY Combinatorはアクセラレータープログラムなので、アイデアをなんらかのデモにしていたり、ある程度のトラクションがあるようなスタートアップを対象にして、2万ドル程度の投資を行う一方で3ヶ月間のブラッシュアップを図るプログラムですので、Draper University卒業生にとっては次のステップになるでしょう。
実際に卒業生はDraper Universityを終えてTechstarsやYCombinatorのようなアクセラレータに参加し、数百万ドルで自社を売却したりしている人もいます。ティム・ドレイパー氏がビットコイナーのため、参加者もブロックチェーンに関心が高く、ICOで一時は1億ドルの時価総額を記録した会社やDatawalletなどのブロックチェーン系企業もあります。
他にもForbes 30選ばれる人や、Marc Benioff、Marc Andreessen、Tim Draperなどの有名な投資家から資金提供を受けている卒業生もいます。彼らは初日に自身の経験を話しに来てくれます。
ビジネススクールのアントレプレナーコースというのはもう少しアカデミック寄りです。有名な大学はバブソンカレッジですが、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、南カリフォルニア大学などなどカリフォルニアの一流校でも学ぶことができます。
ただ、2年間を費やして年間10万ドル近い投資を行う一方で、起業するという選択が取れる人はどれだけいるのかというとちょっと疑問です。むしろアクセラレーター参加までチャレンジし続けるか、ある程度のデモをもって投資家を回るほうが早いです。しょうもないように見えるアイデアでも大当たりが見込めれば、投資してくれる人もいるのである意味で根性で行けるところがあります。
講師の質という意味ではDraper Universityも一線の投資家や起業家を招聘しているので、ビジネススクールにも負けるどころかむしろ生の声を聞けます。ビジネススクールで学ぶことは体系的に起業やビジネスについての知識をつけるには向いていますが、あまりにコストが高いように思います。もし私がビジネススクールに通えるならファイナンスかマーケティングを専攻して、自分で勝手にビジネスを始めます。
体を動かして考え方を変えることに重きを置く
1週目を過ごした感想としては、やはりコミュニケーションがとれる程度の英語力は必要だし、簡単でいいので大学やこれまで学んだこと、そして自分の意見やアイデアを言えるだけの積極性があれば良いなと思いました。ただ英語力もアウトプットが自然にあるので伸びることはあれど衰えることはないでしょうし、考え方や不安や怖れ、チームビルディングについてもみんなでやっていくのでそこまで心構えがなくても良いと言えます。
私もものすごく自信があって、ビジョンが明確で、キラキラしている人間とは言えません。だからダメなのかと言うとそうでもないと思えます。こちらのアントレプレナーにもギークも多いですし、大学の優秀学生から表彰とは無縁の人、ボソボソしゃべる人からプレゼンが決してうまいとは言えない人もいます。
Draper Universityで仲間とプロジェクトを進めるというのは、良く言えば「新しい刺激」を与えてくれますが、悪く言えば「思い通りにならない」という経験をたくさんさせてくれます。すでに仕事でそのような経験している人も少なくないと思いますが、起業家を目指している個性のある人間を、フラットな人間関係で、何かを一緒にするという大変さは想像を超えていました。
何を一つ決めるにも意見をぶつける、ただ意見をぶつけて昇華させられれば良いのですが、それぞれに思いがあるので簡単には受け入れられない人もいます。英語がうまく通じないこともしょっちゅうあります。そんななかで自分ができることを見つけて取り組むというのはちょっとした修行かもしれません。
会社でも外国の人や同僚と意見を出すことはありましたが、答えとしては論理的にある程度正しい方向性があるので、表現の仕方や伝え方といったところが論点になることが多いのですが、新しいビジネスというところは答えはないので、過去からの一貫性がありすぎると10x思考もイノベーションも実現しにくいのです。
なので、Draper Universityのカリキュラムはみんなでブレインストーミングやビジネスモデルキャンバスを描くことに多くの時間を使うことはありません。チーム対抗スポーツに新しいルールを追加して楽しんでみたり、いろんな街の人とコミュニケーションをとるゲームをしたり、Bats Improv Improvというコメディーグループの人を読んで自己表現について学んだりします。
起業家の先輩方の話を聞くのはとても勉強になるのですが、違うビジネス・違う人なのでどう成長したかを聞いたところであまり多くの意味はありません。もちろん学びはなくはないのですが、それよりも今取り組んでいることへの熱意やどういう背景から今に至ったのかというどちらかというと感情的なものを感じ取ることで刺激を受けたり、新しいアイデアが生まれたりすると思うのです。
個人的に気になったり、不満な点
ただ、ちょっとは気になる点もあります。まず「5週間という期間は長いという点」。大学生が起業家を目指してアイデアベースのところからブラッシュアップしていくには良いかもしれませんが、キャリアのある人が5週間を費やすのはちょっと長いです。
時間に比例して参加費も12,000ドルと高いです。奨学金があるので半額程度にはなる人もいるようですが、フルで支払うにはちょっと高いかなと思います。2人部屋というのは気になる方もいるかも知れませんが、「アルコールを飲まない」にチェックして、運良く静かめなルームメイトに当たればあまり気にならないかなと思ってます。
「食事があまりつかないという点」。これだけの参加費にもかかわらず食事はほぼ付いてきません。週に1度位はデリバリーでみんなで食べられますが基本的には自炊するか、外で食べるか、買ってくることになります。その場合は最低でも7ドルくらいはしますし、外食なら20ドルくらいはします。
「寮に洗濯機が3台しかないという点」。これは部屋で手洗いすることで解決しましたが、参加者が80名近いのに(今回は特別多いようですが)洗濯機が少ないと当然洗えません。このあたりの環境についてはあまり気にしない、気にならない精神のある人でないとちょっとストレスかもしれません。
不満というか、完全に個人的な能力不足なのですが、「英語についていけない」という点はあります。講義のスピーカーにもよりますが恐ろしく早口な人がいます。彼らの頭脳が高速回転しているということなのかもしれませんが、ネイティブでも少し聞いてなければ聞き漏らすのではないでしょうか。そうなると、もうお経のようにしか聞こえなくなってしまいます。
最後に
私はここで感じられたことはとても大きいと思います。自分自身でどういう価値観を持って、どうなればハッピーになれるのかを真剣に考え始めたところにこのDraper Universityに来れて、また一つ道がはっきりしてきたような気がしてます。
そして、ここは自分が主人公だと感じられます。別に一人でいても全然良いんです。昨日は野球を見に行きましたが、行かない人も半分以上いたのではないでしょうか。日本人よりもオープンな性格の人が割合多いアメリカですが、静かな人も当然いますし、仲間を募ってご飯に行っても良い。こうあるべきということはないということを感じます。
また、全員がその人の個性を尊重していると感じます。英語が下手で何を言ってるかわからなくても馬鹿にされることはまずありません。むしろ何をいいたいのかを感じようとしてくれます。
その中で自分の中の本当に大切にしたい価値観に気づけたり、足りない点に気づいたり、そういう気付きを色んな角度から与えてくれる刺激の多いプログラム何だと思います。ぐちゃぐちゃになった複数のジグソーパズルの欠けているピースを見つけるにはこういう環境に身をおいてみることも悪くないと言うのが今のところの私の感想です。
ブログにより詳細な感想を書いております。またこちらにも1週間毎に考えたことを書いていきたいと思いますのでご興味ある方はぜひお読みいただければ幸いです。