コミックス経験ゼロの新人のオリジナル漫画を宣伝なしでランキング上位に突入させる件について
タイトル:『敵国のスパイに転生した伯爵令嬢、振られるために頑張ります!』(2025年7月刊行)
ジャンル:なろう風ファンタジー少女漫画
連載媒体:ニコニコ静画、カドコミ
役割:担当編集、プロット構成
企画の背景・狙い:
当時、部署の方針は海外市場から日本国内市場に転換したので、日本国内で流行っているスタイルの作品が必要となった。
しかし、令嬢・溺愛のテンプレ作品が数多くて、似たようなものを作っても注目されにくい。
なので、あえて逆に、
捨てられた可哀そうな女性ではなく→敵国のスパイの強い女性、
溺愛ではなく→振られる目的の女性、
かっこいいヒーローではなく→ボケていて、「この人は本当にヒーロー?」に思わせるヒーロー、
で作品を作った。
注力したところ:
●なろう系読者を引き寄せるために、明るくて楽しいシナリオにする。コメディに長けているシナリオライターを選定。
●ヒーローをもっと立体的にする。同質化の溺愛ヒーローを回避し、「ボケから冷徹、冷徹から真の愛」という逆転シーンを用意する。
●ヒロインをもっと印象的にする。一方的にいじめられ、愛されるキャラではなく、自己主張を持って、反抗性の強い女性にする。
●ストーリーのミステリー性。同類作品の展開は平坦になりやすく、ワンパターンになりやすい傾向があるので、本作品にいくつかの謎を引きとして入れた。
●漫画家はネームに弱く、考え詰める傾向があり、ネームの指導やメンタルケアに力を入れた。
成績:
コミック、原作とも外国の新人、広告なしにも関わらず、連載開始後、同類作品の中ですぐ注目され、
たくさんの人気コミカライズ作品を押え、
カドコミ少女漫画ランキング最高5位、リリース月フォロワー数1位;
ニコニコ少女漫画ランキング最高16位、おすすめの新作に選ばれた。
コメディ風と、ヒーローの逆転設定は読者から好評。
単行本発売後、eBookJAPANに8月のおすすめに選らばれた。
感想:
漫画家はこの作品を引き受けるまでにイラストレーターをやっていた。ストーリー性のある絵がうまいのに、評価されないゆえに、原稿料を低く叩きられ、非常に自信のない方。フルカラー縦スクの線画しか描いたことのない彼女だが、2-3回のFBだけでコミックスのネームコツをつかみ、3話でモノクロ画面の演出も驚くほどうまくなった。
原作者は、「作品が面白いけど、強い女子だとリスクが高い」、「いじめられるキャラこそ応援される」、「読者を引き寄せるなら冒頭にイチャイチャシーンを追加してください」など言われた経験を持ち、なかなか採用されない方。
しかし、彼女たちが評価されないのは作品クォリティーと関係なく、あくまで適切な編集者に出会っていないからと思う。
この世にオリジナルもの、独特で面白いものを求めている人がたくさんいる。コミックスの経験がないから売れない、今流行っているものと違うから売れないなんて、根拠のない偏見。
この作品は、ライズにも頼らず、ヒットネタにも頼らず、広告にも頼らず、完全に自力で上位に登った。担当編集として誇りと思う。
思わなかったのは、シナリオ完成後、作画2話に進んだ頃に、会社都合で異動が発生して、該当作品をほかの編集者に引継ぎをした。その後、もう一回の担当変更が発生し、打ち切り前提で3話以降を制作し、広告なしで単行本を刊行。
とびきり級のよいスタートを達成したのに、残念結果になったとしか言えない。しかし、作品が打ち切りになっても、データはすでに作家の実力を証明した。残念は残念で終わらせない。これから私は作家とともに、さらなる人気作を世に送り出す。