IPOを目指す会社で「社長が全部決める」が限界になる理由
IPO準備というと、会計制度の整備、内部統制、規程の作成、取締役会の運営などが注目されます。
しかし、その前提として考えておきたいのが、**「誰が、何を、どこまで決めるのか」**という権限設計です。
創業期や会社の規模がまだ小さい段階では、社長が多くの意思決定を行うことには合理性があります。
社長自身が顧客や商品、取引先、社員の状況まで把握しているため、仕入、契約、採用、投資などについてその場で判断した方が、むしろ速く会社を動かせます。
ところが、会社が成長すると状況が変わってきます。
取引先が増え、社員が増え、事業や拠点が増えるにつれて、社長に確認すべき案件も増えていきます。
「この契約も社長確認」
「この発注も社長承認」
「この採用も社長判断」
こうした状態が続くと、いつの間にか社長自身が意思決定のボトルネックになってしまいます。
「権限を分ける」ことは、社長の権限を弱くすることではない
会社が成長するためには、すべての判断を社長に集めるのではなく、重要性やリスクに応じて権限を分けていく必要があります。
例えば、
- 一定金額までの支出は部門責任者が決裁する
- 通常取引と例外取引で承認ルートを分ける
- 重要な契約や高額投資は経営陣で確認する
- 特殊な取引は上位者へエスカレーションする
といった形です。
大切なのは、単純に承認者を増やすことではありません。
「どこまでは現場で判断でき、どこから先は経営判断なのか」
を明確にすることです。
適切に権限が設計されれば、現場は毎回社長の判断を待つ必要がなくなります。
同時に、社長も日常的な判断から少しずつ離れ、事業戦略、投資、組織、人材など、より重要な意思決定に時間を使えるようになります。
まずは「実際に誰が決めているか」を見える化する
権限規程を作る前に、まず確認したいのは現在の業務です。
規程上は部門長決裁となっていても、実際には毎回社長へ確認していることがあります。
逆に、規程では明確になっていなくても、長年の慣習で担当者が大きな判断をしている場合もあります。
そのため、
誰が起案し、誰が確認し、誰が最終的に判断しているのか
を実際の業務フローに沿って整理することが重要です。
私は、事業会社での経理実務、監査法人での上場会社・IPO監査、独立後の決算・内部統制支援などを通じて、会社の成長に伴って「誰が何を決めるのか」を整理する重要性を感じてきました。
特に会社の規模が大きくなるほど、個人の経験や判断だけではなく、組織として安定して意思決定できる仕組みが必要になります。
内部統制は「会社を遅くする仕組み」ではない
内部統制や権限規程という言葉から、
「承認が増える」
「手続が面倒になる」
「会社のスピードが落ちる」
という印象を持たれることもあります。
しかし、本来の目的は逆だと考えています。
適切に権限を分け、判断基準を明確にすることで、社長がいなくても通常業務が進む会社を作る。
そして本当に重要な案件だけを、経営陣がしっかり判断する。
会社が成長していくためには、
「社長が全部決める会社」から「組織として判断できる会社」へ移行していくこと
が必要になります。
これはIPO審査のためだけに作る仕組みではありません。
IPO後も会社が成長を続けるための、経営基盤の一つだと思います。
次回は、
「IPO準備で考えたい『権限規程』の本当の役割」
について書きたいと思います。