キャリア相談の場で、50代の方と向き合っていると、ある共通した悩みに出会います。
「このまま会社に残るか」
それとも、
「思い切って外に出るか」
多くの方が、この二択で悩んでいます。
そして、そのどちらも簡単ではないことを、本人がいちばんよく分かっている。
現職に残れば、収入や肩書きは守られる。しかし、役割は限定され、やりがいや裁量は縮小していくかもしれない。一方で外に出れば、収入や立場は不安定になるリスクがある。
そして、そのどちらも「正解ではなさそう…」と薄々感じている。
だから、どちらも選びきれず、立ち止まってしまう。
私はこれまで、その姿を何度も見てきました。
選べないのではなく、知らないだけ
そんな方に、私はときどき「自分自身の働き方」をお話しします。
会社員を辞めた今、どんなふうに仕事をしているのか。
どんな収入構造で、どんな時間の使い方をしているのか。
すると、多くの方がこう言います。
「えっ、そんな働き方があるのですか?」
「それ、選択肢として考えたことがなかったです」
特に、長いあいだ1社で働いて来た方、ずっと公務員だった方に多い。
「業務委託? パラレルキャリア? 初めて聞いた」と。
実は、昨日面談した50代教員の方もまったく同じ反応でした。
こうした経験から、私はある確信を持つようになりました。
多くの人は、「選べない」のではなく、ただ「知らない」だけなのだと。
いきなり決断しなくていい
かつての私も、同じでした。
会社員として長く働き、管理職を経験し、責任も背負ってきました。
そして、55歳で自分の将来を考えたとき、
「会社に残るか、辞めるか」という二択しか見えていなかった。
でも、気づいたのです。
この二択自体が、思い込みだったと。
会社に「残りながら」、外とつながる。
組織に身を置きつつ、自分の経験や強みを、社外でも活かしてみる。
小さく試しながら、世界を広げていく。
そんな働き方が、実は存在していました。
第三の働き方とは?
それが、いわゆる「複業」と呼ばれる働き方です。
ここでいう複業は、本業の収入を補うための小遣い稼ぎや、時間を切り売りする「副業」とは違います。いきなり収入を増やすことが目的でもありません。
これまで積み重ねてきた経験や人脈、考え方を、複数の場所で少しずつ活かしていく働き方です。その結果、会社以外に、あなたの「居場所と役割」をつくることができます。
ポイントは、
「いきなり辞めなくていい」こと。
現職を続けながら、可能性を試す。
人生後半のキャリアは、勢いよりも「納得感」が大切です。
一度きりの決断で、人生を賭ける必要はありません。
小さく始めて、合わなければやめればいい。
うまくいけば、少しずつ育てていけばいい。
その選択肢を持てること自体が、大きな「安心」につながります。
定年を見据えたときこそ、複業という選択
50代になると「60歳定年」が現実味を帯びてきます。
そして、「定年後の準備」として、複業はとても有効です。
将来、年金以外の収入の目途をつけることは「老後の安心」につながります。「やりがい」を感じながら、長く働き続けることだって可能です。
これができるのは、
50代ならではの特権です。
これまで担当した50代受講生のなかには、もともと転職を考えていたものの、複業へ方向転換した方もいます。理由は、「できるだけ長く社会と関わりたい」という思いでした。
複業に定年はありません。
60歳以降も「生き生きと働き続けたい」と願う方にとって、複業は現実的な選択肢なのです。
あなたには、すでに強みがある
面談で出会う多くの方が、こう言います。
「でも、自分になんて特別なスキルがない」と。
いいえ、決してそんなことはありません。
長年、同じ組織で働いてきたということは、
業界の空気を知り、組織の論理を理解し、
人と人の間で調整してきた経験があるということ。
それらは、外に出た瞬間に「価値」を持ち始めます。
ただし、本人にとっては「当たり前」すぎて、
「それを価値だと認識していないだけ」なのです。
たとえば、ある受講生の方は、長年人事部門で社内調整をされてきました。
ご本人は「特別なことは何もしていない」と言っていましたが、その調整力や社内政治を読む力は、中小企業の経営者にとって貴重なアドバイスになりました。
「残るか、出るか」の間にあるもの
経験上、「残るか、出るか」の二択で悩んでいる時点で、視野はかなり狭くなっています。
でも実際には、
その間にいくつものグラデーションがあります。
会社との関係性を少しずつ変えながら、自分の働き方を試し、調整し、育てていく。
私は、そうしたプロセスこそが、「人生後半のキャリアにふさわしい」と感じています。
おわりに
無理に決断しなくていい。
今すぐ答えを出さなくていい。
複業の世界にいると実感します。
キャリアは変幻自在だと。
だから、「二択しかない」と思い込むのは、もったいない。
そのことだけでも、知っておいてほしいのです。
現職に残るか、外に出るか。
その間にある、もうひとつの選択肢。
もしあなたが今、立ち止まっているなら、
まずは、そこから考えてみてもよいのではないでしょうか。
もちろん、今すぐ何かを始める必要はありません。
ただ、「知っておく」だけでも、あなたの選択肢は確実に増えます。