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精神医学と〝チューニング〟

松崎朝樹先生著『教養としての精神医学』(2023年)で興味深い実験が紹介されている。

肉食大型魚(バス)とグッピーを同じ水槽の中で60時間に渡って飼育し、観察したというのだ。


教養としての精神医学
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グッピーは合計60匹。「すぐに逃げる臆病なもの」「普通のもの」「相手を観察する勇敢なもの」がそれぞれ20匹ずつ用意されたという。

結果、「勇敢」なグッピーは全滅し、生き残ったのは普通のグッピー3匹、臆病なグッピーが8匹だったのだそうだ。危険な環境においては勇敢さは仇となるという、ある種至極当然な結論が導き出される。

また、女性は男性の2倍、不安症を発症しやすい事実も紹介されている。これもかつてヒトが狩猟民族であった時代の名残りではないか、と本書で考察されている。種族を維持できるよう、出産が可能である女性という性別に、より安全な場所にいたがるために不安になるよう〝機能〟が備わったのだ。

このように精神障害とは元来人に備わっている必要な機能ではあるが、その機能が暴走してしまうと現代社会になじまなくなる、と説明は続く。

このように、精神障害が人間に備わった普遍的な機能である、といくら精神科医が啓蒙しても、日本の精神科受診率は世界的に見ても低い値を保っている(2002~2005年間にWHOが行った調査では17%)。

オーストラリアでは精神科系の有病率が高いが、これは国民が小学校のころから認知行動療法を教わるなど、精神医学への親和性が高いため、結果として受診率が高まったことが要因と考えられている。詳細は下記文献を参照して欲しい。


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精神障害が生存に欠かせないものである以上、必要なことは〝チューニング〟ではないだろうか。

ここでのチューニングとは、苦しみを認めて精神科を受診し、苦しみと社会との折衝、「折り合い」を図るということである。

むろん精神科を受診したからといって万事解決というわけではない。​しかし受診して、医療を受けることによってものごとが改善に向かう可能性はずっと高くなるだろう。

差別が怖いから受診をためらう、という気持ちもわからないでもない。しかし上記のとおり、異様に低い精神科受診率は日本特有のものなのだ。たとえ差別を受けたとしても、むしろ「差別する側がおかしい」と言い切れるだけのある種の〝開き直り〟も時に必要である。