取材に行く前は、毎回ちゃんと緊張する。
ちゃんと話を聞けるだろうか。聞きたいことを聞き逃さないだろうか。変なことを言ってしまわないだろうか。
あと、取材先の商品名やサービス名を言い間違えないだろうか。
これは本当に怖い。事前に何度確認しても、たぶん取材が続く限りずっと怖い気がする。
それでも、取材の日が近づくと楽しみになる。
今日はどんな話を聞かせてもらえるんだろう。公式サイトにもSNSにもまだ載っていない、その人しか知らない話が出てくるかもしれない。
そう思うと、緊張より少しだけ楽しみのほうが勝つ。
「もっと主張してほしい!」と思った和菓子屋さん
これまでの取材で特に印象に残っているのが、和菓子屋さんを取材したときのことだ。お店の商品についていろいろ話を伺う中で、ある話が出てきた。
和菓子は、買った瞬間に食べるとは限らない。手土産として購入して、そのあと誰かの家へ持っていったり、少し時間を置いてから食べたりすることも多い。
だからそのお店では、お客様が買う時間ではなく、実際に相手へ渡す時間に一番おいしい状態になるように考えて商品を作っているのだという。
それを聞いた瞬間、心の中で
「何それ!そんなの全然押し出してないじゃん!もったいない!」と思った。
もちろん実際の取材中にこんな叫び方はしていないけど、それくらい興奮した。
お店のホームページを見ただけでは分からなかった。SNSにも書いていなかった。直接会って話を聞いたから、初めて知ることができた。
こういう瞬間が、私はすごく好きだ。
取材をしなければ、出てこない言葉がある
取材では、事前に質問を用意していく。でも、本当に面白い話がいつも質問リスト通りに出てくるとは限らない。
会話の途中で何気なく出た言葉が気になって「それってどういうことですか?」と聞いてみる。すると、そこから思いがけない話につながることがある。
公式サイトにも、SNSにもない。もしかしたら、取材を受けた本人も、それまでわざわざ言葉にしたことがなかったかもしれない。私は、そういう言葉を拾いたいと思っている。
相手が話している途中で「つまり、こういうことですか?」と確認することもある。表情を見て、「ちょっと違うかもしれない」と思えば、質問の角度を変える。まだ本人の中でも形になっていないものを、一緒に言葉にしていく。
取材という場がなければ出力されなかった言葉って、きっとあると思う。それを見つけられたときは、とても嬉しい。
接客とカスタマーサポートの経験は、思った以上に生きている
取材を始めてから、昔の仕事の経験が意外なところで役に立っていることに気づいた。
たとえば、電話で取材のアポイントを取ること。知らない人と初めて話すこと。少し緊張している相手とアイスブレイクをすること。相手の話に共感しながら、もう少し詳しく聞いてみること。
もともと接客の仕事を長くしていたので、初対面の人と話すことには比較的慣れている。特にカスタマーサポートの仕事では、共感の示し方をかなり叩き込まれた。相手が困っているときに、ただ「わかりました」と言うだけでは足りない。
どこに困っているのか。どんな気持ちで話しているのか。
何を分かってほしいのか。
それを考えながら言葉を返す。
もちろん、取材とカスタマーサポートはまったく違う仕事だ。でも、「あなたの話をちゃんと聞いています」と相手に伝えることは、どちらにも必要なことなのだ。
人は、安心できる相手には少しずつ話してくれる。
だから私は、質問をたくさん投げること以上に、「この人なら話してもいいかも」と思ってもらえる空気をつくることを大切にしている。
一番怖いのは、相手の言葉を違うものにしてしまうこと
取材は楽しい。でも、同時に怖さもある。
私が一番怖いのは、相手が伝えたかったことを間違って受け取ってしまうことだ。
取材中に聞いた話を文章にするとき、書き手はどうしても情報を整理する。順番を変えたり、言葉を補ったり、読者に分かりやすい形へ整えたりする。だからこそ、その過程で相手の意図を変えてしまいたくない。
「本人はそんなつもりで言ったわけじゃないのに」
という文章にはしたくない。
その人らしい言葉や温度感を残したい。読者には、「ここに行ってみたい」「この人に会ってみたい」と思ってもらいたい。でも、そのために話を必要以上に盛ったり、都合のいい形へ変えたりはしたくない。
取材して聞かせてもらった言葉を大切にしながら、まだその場所や人を知らない読者に伝わる形にする。その間をつなぐのが、ライターの仕事だと考えている。
私は、知らない人に会いに行って、知らない話を聞くのが好きだ。
知らない人に、もっと会いに行きたい
特別に有名な人でなくてもいい。自分なりの考えを持って仕事をしている人。人とは少し違う方法を選んでいる人。誰にも言われなくても、何かを大切に守り続けている人。
そんな、自分なりの芯を持っている人の話をもっと聞いてみたい。
きっと、その人にとっては「普通のこと」だから、わざわざ表に出していない話もたくさんある。
和菓子屋さんで聞いた話のように
「え、それめちゃくちゃ面白いのに!」
と思うものが、まだいろんな場所に隠れている気がする。私はそれを見つけたい。
話を聞いて、一緒に言葉にして、まだその人を知らない誰かへ届けたい。
これからも、少し緊張しながら知らない場所のドアを開けて、いろんな人に会いに行こうと思う。