現在はバイオベンチャーで、微生物の培養・発酵プロセスを AI で自律制御するシステムの開発をリードしています。センサーやデバイスの開発から、工場ネットワーク、クラウド基盤、アプリケーションまで、現場とデータをつなぐ仕組みを一通り手がけています。
## 出発点は、純粋な生物学
もともとの出発点は、純粋な生物学でした。東京工業大学の博士課程では、「魚のヒレはどうやって私たちの手足になったのか」という進化の謎を、サメやヤツメウナギの胚を使った実験で追いかけていました。
## 生物を「数式とコード」で捉える
転機は博士取得後、スペイン・バルセロナの研究所でのポスドク時代です。実験だけでは見えない「形ができる仕組み」を理解するために、反応拡散方程式による数値シミュレーションを Java で書き、ヒレと手足の骨パターンの違いをチューリングパターンの再編成として説明しました(Nature Communications, 2016)。このとき、生物を「数式とコードで再現できるもの」として捉える面白さに取り憑かれました。
帰国後は理化学研究所でサメのゲノム・トランスクリプトーム解析やマルチオミクス解析に取り組み、スーパーコンピューター上での大規模データ解析や解析環境の構築も経験しました。基礎科学特別研究員としては、深層学習でゲノムの非コード領域から転写制御配列を予測するアルゴリズムを開発し、日本バイオインフォマティクス学会でポスター賞もいただきました。その後、名古屋大学医学系研究科でがんゲノムや天然変性タンパク質の解析に携わり、科研費や民間財団の研究費を研究代表者として獲得・運営してきました。
## データの力を、持続可能な社会へ
アカデミアで研究を続けるうちに、自分が培ってきたデータサイエンスの力を、論文の中だけでなく社会やビジネスの現場で試してみたいと考えるようになりました。近年の地球温暖化による気候変動などの社会課題を解決することができないか模索しました。そこでたどり着いたのが、微生物の力で化学品や食品素材をつくるバイオものづくりの世界です。化石資源に頼らずに、生物の力でものをつくる「バイオエコノミー」を社会に根付かせることは、持続可能な社会への確かな一歩になる。そこに自分のデータの力を注ぎたいと考え、2023年に今のバイオベンチャーへ移りました。
## いま取り組んでいること
現在は、培養槽のセンサーや PLC との産業通信、エッジでのデータ収集、AWS 上のクラウド基盤、そして AI が設定値を提案・制御する上位レイヤーまでを設計しています。既存の設備制御には手を触れず、安全性と拡張性を両立させる構成を大事にしながら、「研究室の知見がそのまま製造現場で再現される」状態を目指しています。
## これから
生物学の博士としての視点と、エンジニアとして手を動かす力。その両方を持っていることが、自分の一番の強みだと思っています。化石資源からの脱却、気候変動への対応、環境問題への取り組みなど、持続可能社会への実現に、データサイエンスという武器で貢献していきたいです。