人は、
毎日、同じ時間に起き、
同じように仕事をして、
同じように飯を食い、
また一日を終える。
昨日と今日なんて、
そんなに変わらない。
今日と明日だって、
たぶん、そんなに変わらない。
人生というものは、
振り返れば大きく変わっているのに、
その一日、一日だけを見れば、
驚くほど地味なものだ。
会社をつくったからといって、
翌日から人生が変わるわけではない。
新しい仕事を始めたからといって、
すぐに金が入ってくるわけでもない。
努力したからといって、
翌朝、突然何かが起きるわけでもない。
むしろ、
何も起きない日の方が圧倒的に多い。
私は、
この「何も起きない日」というものが、
実は人生で一番怖いと思っている。
失敗した日は、
まだ分かりやすい。
悔しい。
腹が立つ。
反省する。
そして、
次を考える。
成功した日も分かりやすい。
嬉しい。
自信になる。
またやろうと思える。
厄介なのは、
何も起きない日だ。
やっても、
やっても、
何も変わらない。
昨日と同じ景色。
今日も同じ景色。
明日もたぶん、
同じ景色。
そんな日が続くと、
人は思い始める。
「これ、本当に意味があるのか?」
「このまま続けて、何か変わるのか?」
そして、
ここで多くの人がやめる。
でも、
長く経営をしてきて、
私は一つ分かったことがある。
人生を変えたのは、特別な一日ではなかった。
何も起きなかった日の積み重ねだった。
会社を起こした一年目。
顧客は756人だった。
756人。
今から見れば、
小さな数字だ。
それが、
100,000人が届くところまで来た。
でも、
756人が翌年いきなり100,000人になったわけではない。
一人増えた。
また一人増えた。
減った。
また増えた。
失敗した。
やり直した。
そんなことを、
延々と繰り返しただけだ。
たぶん、
その途中にいた自分には、
未来なんて見えていなかった。
これでいいのか。
本当に大丈夫なのか。
いつまでこんなことを続けるんだ。
暗雲が漂うような日もあった。
「どうして自分にばかり、こんなことが起きるんだ」
そんなふうに、
自分を可哀想だと思ったことだってある。
でも、
ある時から考え方を変えた。
これは、誰かに試されているんじゃないか。
そう思うことにした。
神様なのか、
運命なのか、
世の中なのか、
誰が試しているのかは知らない。
でも、
そう考えた方が面白い。
「お前、ここでやめるのか?」
そう聞かれている。
だったら、
もう少しやってみようじゃないか。
そう思った。
人生には、
何度か長いトンネルがある。
出口なんて、
まったく見えない。
後ろを振り返っても暗い。
前を見ても暗い。
どっちへ行っても暗い。
そんな時、
人は立ち止まりたくなる。
でも、
トンネルの中で立ち止まったら、
景色は永遠に変わらない。
一歩でもいい。
前へ進むしかない。
そして、
これも長く生きていると分かってくる。
出口が見えないことと、出口がないことは、まったく違う。
見えていないだけなのだ。
あと100メートルなのかもしれない。
あと1キロなのかもしれない。
ひょっとしたら、
あと10キロあるのかもしれない。
そんなことは分からない。
でも、
一歩進めば、
出口までの距離は確実に一歩縮まる。
人生とは、
案外それだけのことなのかもしれない。
私は、
人生というものは、
自分が起こした小さな行動から生まれる、
連鎖反応の積み重ね
だと思っている。
一人に電話する。
一通のメールを送る。
一つの商品をつくる。
一人の人間に会う。
一つ決断する。
ほんの小さなことだ。
でも、
その一つが、
次の一つを生む。
その一つが、
また別の一つにつながる。
そして、
何年も経って振り返った時、
「あの時の、あれだったのか」
と気づく。
人生を変えた出来事というのは、
起きた瞬間には、
それが人生を変える出来事だとは、
案外分からないものだ。
失敗しても、
何かが起きる。
成功しても、
何かが起きる。
失敗したから、
出会う人もいる。
負けたから、
考えることもある。
遠回りしたから、
見える景色もある。
だから、
失敗だって、
連鎖反応の一つなのだ。
ところが、
一つだけ、
何も生まないものがある。
何もしないことだ。
何もしなければ、
失敗しない。
恥もかかない。
傷つかない。
金も失わない。
人から笑われることもない。
安全だ。
でも、
何も起きない。
失敗が起きない代わりに、
成功も起きない。
出会いもない。
偶然もない。
奇跡もない。
何もしなければ、
人生は、
真っ白なんだ。
私は、
失敗した後悔より、
何もしなかった後悔の方が、ずっと怖い。
「あの時、やっておけばよかった」
「あの時、一歩踏み出していたら」
「あの時、怖がらずに挑戦していたら」
そんなことを、
人生の最後に考えたくない。
失敗したなら、
まだいい。
「あれはダメだったな」
そう言って笑えばいい。
金を失ったなら、
また稼げばいい。
転んだなら、
また立てばいい。
でも、
やらなかった時間だけは、
取り戻すことができない。
だから私は、
小さな連鎖反応を、
断ち切りたくない。
大きなことなんて、
毎日起こさなくていい。
人生を変えるような決断なんて、
そう何度も必要ない。
今日、
ほんの一歩だけ進めばいい。
そして明日も、
一歩だけ進む。
誰にも評価されない日も。
何の成果も出ない日も。
「こんなことを続けて意味があるのか」
と思う日も。
それでも、
続ける。
その、
一見何も起きていないように見える時間を、
私は、
「無の日々」
と呼びたい。
でも、
本当は無ではない。
水面の下では、
何かが少しずつ動いている。
見えないところで、
次の出来事につながる何かが、
静かに積み上がっている。
そして、
ある日突然、
それまで点だったものが、
一本の線につながる。
人はそれを、
成功と呼んだり、
運と呼んだりする。
でも、
本人だけは知っている。
突然なんかじゃない。
あの、
何も起きなかった日々があったからだ。
だから、
今日、
何も起きなくてもいい。
結果が出なくてもいい。
誰にも褒められなくてもいい。
昨日より、
ほんの少しでも前へ進んでいるなら、
それでいい。
無の日々を恐れるな。
継続の日々を疑うな。
何も起きていないように見える今日が、
いつか振り返った時、
人生を変えた一日の一つになっているかもしれない。
そして、
もし今、
長いトンネルの中にいるのなら、
これだけは忘れないでほしい。
出口が見えないことと、
出口がないことは、違う。
止まらなければいい。
一歩でいいから、
進めばいい。
小さな連鎖反応を、
自分から断ち切らなければいい。
人生は、
たぶん、
そうやって動いていく。
出口のないトンネルなどない。
ただ、
出口に辿り着くまで、
歩くのをやめなければいい。