秘書や事務代行の仕事を請けるとき、毎回悩むことがあります。
それは、料金設計です。
業務内容をヒアリングして、必要な作業を洗い出し、見積もりを出す。
ここまではいいのですが、実際に仕事が始まると、当初は想定していなかった作業が少しずつ増えていくことがあります。
「ついでに、こちらも確認してもらえますか?」
「先方への連絡もお願いできますか?」
「この件、もう一度調整してもらえますか?」
一つひとつは、5分や10分で終わるような仕事です。
そのたびに追加料金を請求するほどでもない。
かといって、すべて無償で引き受けていると、いつの間にか業務量が増えている。
この小さな積み重ねを、どう料金に反映すればいいのか。
長く事務や運営業務に携わってきましたが、今でも悩むところです。
月額固定は安心。でも、どこまでが契約範囲?
月額固定のメリットは、依頼主も受託者も毎月の金額を把握しやすいことです。
予算を組みやすく、継続的な業務を任せてもらいやすい。
ただし、業務範囲が曖昧なまま契約すると、少しずつ仕事が増えていくことがあります。
最初はメールの確認と返信だけだったものが、日程調整、進捗確認、資料作成、関係者への連絡へと広がっていく。
依頼主に悪気があるとは限りません。
一度お願いして対応してもらえた仕事は、次回からも頼めると思うのは自然なことです。
受託者側も、少しの作業なら対応してあげたい。
でも、月額固定は、何でも無制限に引き受ける契約ではありません。
対応する業務、件数、時間帯、判断できる範囲。
どこまでを基本料金に含めるのか、あらかじめ決めておく必要があります。
完全出来高では、成果にならない仕事が残る
では、作業ごとに料金を設定すれば解決するのでしょうか。
営業事務代行を例に考えてみます。
アポイント獲得1件につき、成果報酬をいただく契約だったとします。
営業先から前向きな返信があり、日程を調整して、無事にアポイントが決まる。
ここまでは分かりやすい成果です。
ところが、その後にクライアントの都合でキャンセルになったらどうでしょう。
営業先へのキャンセル連絡。
必要に応じたお詫びや再調整。
管理表の更新。
クライアントへの報告。
実際には、いくつもの作業が発生します。
それなのに、商談が実施されなかったという理由で成果報酬までなくなるとしたら。
仕事はしているのに、報酬が発生しない。
そんな状況になってしまいます。
もちろん、何をもって成果とするかは契約次第です。
アポイントを獲得した時点なのか、商談が実施された時点なのか。
この違いだけでも、受託者が負うリスクは大きく変わります。
さらに、日程変更やキャンセル対応そのものにも作業が発生することを忘れてはいけません。
5分の仕事にも、管理する仕事がある
事務代行には、作業時間だけでは測れない仕事があります。
例えば、先方からの返信を待っている案件。
実際にメールを送るのは5分でも、返信が来ているか確認し、次の対応を判断し、期限を管理する必要があります。
確認待ちの案件が増えれば、それだけ管理する項目も増えていきます。
そして、依頼主への確認やリマインドも必要になる。
こうした仕事は、成果物として見えにくいものです。
だからこそ、見積もりから抜け落ちやすい。
作業そのものと、作業を継続して管理することは、別の仕事です。
ただし、待っている時間をすべて稼働時間として請求したいわけではありません。
大切なのは、どの程度の確認や管理を引き受けるのか、その責任を料金にどう含めるかということです。
そこで、料金を3つに分けて考えてみる
完全固定では、業務が増えても料金に反映しにくい。
完全出来高では、成果に結びつかない細かな仕事を評価しにくい。
そこで最近考えているのが、料金を次の3つに分ける方法です。
① 初期構築費
業務を始めるための準備に対する料金です。
ヒアリング、業務フローの整理、管理表の作成、アカウント設定、テンプレートの整備など。
実際の運用が始まる前にも、仕事は発生しています。
この部分を初期費用として切り分けます。
② 月額保守費(月額運用管理費・月額業務管理費)
業務を継続して回すための料金です。
進捗管理、状況確認、軽微な連絡、日程変更、キャンセル対応、定例報告など。
成果の有無にかかわらず発生する運用業務を、ここで評価します。
ただし、月額保守も無制限にはしません。
対応範囲や件数の目安を決め、継続的に業務が増える場合は料金を見直す。
小さな追加作業を毎回請求するのではなく、一定の範囲をあらかじめ料金に含めておく考え方です。
月額保守費は、受託者が安定して業務を管理するためだけのものではありません。
依頼主にとっても、メリットがあります。
完全出来高の場合、ちょっとした仕事を頼むたびに費用が発生します。
「これくらいなら、自分でやった方がいいかな」
そう考えて、結局細かな雑務を抱え続けてしまうこともあるでしょう。
一方、月額料金の中に一定の対応範囲が含まれていれば、
「せっかくお願いしているんだから、これも任せよう」
と考えやすくなります。
毎月一定の料金を支払っているからこそ、これまで自分で抱えていた仕事も、積極的に任せてみようという意識が生まれます。
その結果、依頼主は本来集中すべき仕事に時間を使えるようになる。
もちろん、何でも無制限に頼めるという意味ではありません。
決められた範囲の中で、気兼ねなく仕事を任せられること。
これも、月額保守という料金設計の価値だと思います。
③ 成果報酬
明確に数えられる成果に対する料金です。
営業リストの納品件数や、条件を満たしたアポイントの獲得件数など。
何をもって成果とするのか、どの時点で報酬が確定するのかを契約時に決めておきます。
例えば、アポイント獲得時点で成果を確定し、その後のクライアント都合によるキャンセルでは報酬を取り消さない。
キャンセル連絡などの通常対応は、月額保守に含める。
このように分けておけば、成果と運用を混同せずに済みます。
3つすべてを請求する必要はない
もちろん、すべての案件で3種類の料金を設定する必要はありません。
単発のデータ入力やリスト作成なら、件数単価だけでも成立します。
継続的な秘書業務なら、初期構築費と月額保守費が中心になるかもしれません。
大切なのは、固定か出来高か、どちらか一つを選ぶことではなく、仕事の性質に合わせて料金を組み合わせること。
そして、契約時に決めた業務内容が変わったら、料金も見直せるようにしておくことです。
料金を決めることは、仕事の境界線を決めること
私は、細かな追加作業のたびに請求書を増やしたいわけではありません。
依頼主にも、安心して仕事を頼んでもらいたい。
一方で、気軽に引き受けた小さな仕事が積み重なり、いつの間にか無償の通常業務になってしまう状態も避けたいと思っています。
そのためには、最初から料金と業務範囲を整理しておくこと。
そして、実際の運用に合わせて定期的に見直すこと。
追加料金を請求しやすくするより、追加料金に悩まなくていい契約をつくりたい。
まだ試行錯誤の途中ですが、初期構築・月額保守・成果報酬という3つの考え方は、そのための一つの方法になりそうです。
料金を決めることは、仕事の境界線を決めることでもある。
依頼する側も、引き受ける側も、無理なく長く付き合える料金設計を考えていきたいと思います。