東大IPC「1stRound」に「日本型ローカル予測市場構築に向けた研究開発」で応募しました
東大IPC・国内大学共催の「1stRound」に応募しました!
研究テーマは「日本型ローカル予測市場構築に向けた研究開発」です。
「ベットデータの重み付けとプライバシー保護」や「少数流動性対応のAMMモデル」、「即時決済」などの技術課題を中心に研究計画を提出しました。
予測市場とは
予測市場は、「参加者が未来の事象に対して確率(価格)を形成することで、分散した情報を最も効率的に集約し、高精度な予測を生成する仕組み」です。
たとえば身近なところでは、アメリカ大統領選挙の当選確率推移は予測市場のデータがしばしば引用されています。
予測市場の課題
しかし、従来型の予測市場は現行の日本の法規制下では事業化が難しいという課題があります。
さらに、代表例であるPolymarketは複数の構造的限界を抱えています。
- 米国政治など特定テーマへの依存
- Marketの解決まで数日を要する
- 巨大 LP による価格支配
加えて、「参加者の専門性を評価できず全参加者が一律の重み付けで扱われる」設計であるため、生活者の知識や行動特性が大きな価値を持つローカル領域とは相性が良くありません。
したがって、日本生活者データの活用には従来とは異なるアーキテクチャが必要となります。
研究テーマ
「日本型ローカル予測市場」の実現に向けて、六つの観点で検証を行います。
- ベットデータの重み付け
- プライバシーデータの活用
- 少流動性向け価格形成
- 即時決済 (Real-Time Market Resolution)
- 利回り統合 (Yield Integration)
- 日本における法規制整理
1. ベットデータの重み付け
まず一つ目が、ベットデータを「誰が投じたか」というユーザー属性で適切に重み付けする方法です。
これまでの予測市場はすべての参加者を同じ重みで扱う前提でしたが、日常的に駅を使う人や、地域のイベントに詳しい人の判断は明らかに質が違います。
匿名化した行動データをもとに、こうした「情報の信頼度」をどのように反映させられるかを検証します。
2. プライバシーデータの活用
次に、オンチェーンでのプライバシーデータの取り扱いという課題があります。
「オンチェーンデータは(基本的に)全てパブリック」という構造的制約から、扱えるデータ種類に限りがありました。
生活者の専門性を反映しつつもプライバシーを損なわない運用方法を探ります。
たとえばWalrus SEALを活用することでオンチェーンデータの排他的制御が可能です(こちらはJR東日本スタートアッププログラムにて、Suicaデータを活用した予測市場のPoC案を提出済み)。
あるいはzkTLS を活用することで、身元を明かさずに証明に必要な属性データだけを抽出可能です。
3. 少流動性向け価格形成
三つ目は、市場規模が大きくない領域でも必ず成立する価格形成モデルの検討です。
PolymarketやKalshiはじめ主要な予測市場はOrderbook 方式を採用しており、これはより高度なトレーダー向けの進化と言えます。
LSMR AMM方式はトレーダー体験とトレードオフではあるものの、流動性が小さい市場でも必ず成立するという利点があります。
ローカル予測市場ではむしろLSMR AMMがフィットすると考えており、再評価に向けて研究します。
(Solidity・Rust・ Move・Luaそれぞれの言語でスマートコントラクトを実装比較します)
4. 即時決済(Real-Time Market Resolution)
四つ目は、リアルタイム性が求められる領域で重要となる「即時決済」の実現です。
Nautilusや Arweave AOなど異なるアプローチを比較し、マーケットクローズ高速化のアーキテクチャを研究します。
たとえば格闘技向けの予測市場では 、従来は数日間かかっていた報酬の Claim を試合終了後 10 分間以内に行えるようにすることで、一つの興行で次々にBetできるようになります。
(SuiのThe Walrus Haulout Hackathonでは「ライブ配信xリアルタイム予測市場」を発表しました)
5. 利回り統合(Yield Integration)
五つ目は資金効率の改善です。
Vitalikが指摘したように、予測市場の構造的欠陥は「ベットした資金が決着までロックされることに伴う機会損失」です。
たとえばUSDCのようなドル・ステーブルコインは低リスクで年間 10%の利回りを実現できますが、予測市場にBet するとこの利回りが失われます。
利回りに自動接続する仕組み(Vault)や、利回り内蔵トークン(Yield bearing token)を活用し、この課題を解決できます。
また、デポジット利回りという新たな収益源によって、「Bet手数料ゼロの予測市場」を実現できるとも考えています。
(こちらはSui x ONE ハッカソンにてコンセプトを発表し、Sui最大のDeFiであるScallpのCEOにも有意義なテーマだと講評していただきました。各種 DeFi プロトコルと連携しながら研究していくべきテーマです)
6. 日本における法規制整理
最後に、日本で実際に運用するには、法規制やデータガバナンス、運用体制といった制度面の整理が欠かせません。
ルールや運用モデルをまとめ、社会実装のための現実的な道筋をつくります。
(ロビイングや政策提言なども必要で、複数社で協調すべきテーマだと考えています)
事業モデル
巨大な総合型プラットフォームをインハウスで構築・運営するのではなく、テーマ特化の予測市場を国内外の企業(あるいは自治体)と共同運営するビジネスモデルを考えています。
「交通・都市運営・エンターテイメントなど用途別に最適することで、 PolymarketやKalshiなどの超大手に対してもポジションを確立できる」と仮説を立てています。
(cf. 後発の予測市場戦略として「総力戦」や「電撃戦」、「ランチェスター戦略」「巨人の肩に乗る」などの事業戦略フレームワークを比較検討して、最も手堅いと考えました)
初期予算について
初期の活動資金は大企業のPoC予算やProcolからのGrantを中心とする方針です(また、Angel投資も限定的に受け入れる予定です)。
すでに国内外のエンタープライズやグローバルトップL1との協議も開始しています。
ご興味がある企業さまがいらっしゃれば、ぜひお気軽にお問合せください