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リカレント教育と無形資産  選手引退後どうする?

少し暗い話だが、

私の競輪学校同期93期の中でも自殺している選手が二人、

佐賀の若い後輩や、引退した選手にも自殺している人がいて、

他県でもそういった人がいると聞きますし、

私が聞いた中でもごれぐらいの数なので、

認識していない他県の選手などを含めると、

その数はもっと多いだろう。

華やかなレースの一方で、

どうしてこんなにも多いのか、

その原因や背景について私なりに考えてみた。



一つは、「選択肢の少なさ」

競輪選手は、7割ぐらいの選手が高校を卒業後、

競輪選手養成所に入学し、

一年間の養成期間を経て、

そのままプロの競輪選手になり、十数年を過ごす。

つまり、社会人として必要とされるコミュニケーションスキルや

言葉遣い、PowerPoint、Excel、Wordなどの知識、

ビジネスメールの書き方、商談や会議でのマナーなど、

社会的なスキルや経験、実務を積まないまま大人になる傾向が強い。

実際、私も社会に出て、

周りのビジネスマン達の会話についていけなかったし、

ビジネス用語が飛び交っている場で、

自分が何を話せばいいのかまったくわからなかった。

(へぇ〜!そうなんですね!とリアクションを大げさに取るぐらい^^;)

一般的な社会では、それまで積み重ねてきた知識や経験やスキルを

ポータブルに持ち運ぶことができるので、

万が一、職場での人間関係や業種が合っていなければ、

他の会社に移ったり、業種や業界ごと軸をずらすことができる。

俗に言う「つぶしがきく」状態

しかし、競輪選手に限らず、

スポーツ選手などの場合は、

スペシャリストとしての技能としては、ものすごく高いが、極端に限定される。

自転車を速く漕ぐということは、

限られた枠組み、決められたルールの中では力を発揮するけど、

その限られた一つの点以外では、応用が効かない。


つまり、他に移りたくても、

ポータブルに持ち運びできるスキルが無く、

その場に留まるしかないので、

同じ人間関係、同じ環境で、逃げたくても逃げることができない。

AとBとCとDがあって、

BもCもDも選べるけど、

今はAをやってるのが好きだからAを選んでる。

という選択肢があれば、

心に余裕ができるのだが、

Aをやり続けるしかない、

A以外の選択肢はない、

というのは、精神的にもかなりツラい。

10,000円のお小遣いもらっている人は、

300円のものも買えるし、

9,000円のものだって買える。

しかし、

1,000円のお小遣いもらっている人は、

300円のものは買えるが、

1000円以上のものは買うことができない。

逃げたくても逃げることができずに追い込まれる、

外に出たとしても、社会と適合できずに苦しむ。

二つ目に、「視野狭窄と視点の低さ」

どこの世界でも似たような傾向はあると思うが、

競輪の世界も極端に狭い世界で、

私が現役選手の頃、

外部の様々な業種、職種の方達と交わることはほとんどなかった。

むしろ排他的で、外のものは受け付けないという空気感さえ漂っている。

外の世界がどのようなものかわからなかったし、

わからないものというのは怖いもので、

それがより外に出るハードルをより高くしているように思える。

3日間走って、賞金を現金手渡しでもらうという稼ぎ方をしているので、

等価交換に慣れているので、目の前の短期的な視点になりやすく、

物事を俯瞰して、長期的に高い視点から見るということがなかなかできない。

さらに、賭け事の対象であることから、

レースに参加してる間は、

通信機器(携帯、パソコン、iPad、通信機能付きゲーム機など)をすべて預け、外部との接触も完全に遮断される。

むしろ今の情報化社会の中、通信機器が付いていないデバイスのほうが少ないのではないだろうか。

外部と接触できない日数が、一年でおよそ約100日あり、

365日のうち約100日を、情報から遮断された生活をする。

新しい情報や、人から得られる知識や刺激に触れることができない日数が

1年のうち3分の1あることを考えると、

「そりゃぁ、世の中のことわからなくなって、判断基準や判断軸を間違うわな」

と、思った。


競輪選手が引退した後に、「世間知らず」「考えが甘いと」と言われるのは、

こういう狭い世界に長年住んでいることも背景としてあるだろう。

これから競輪業界もより競争が激しくなり、

新陳代謝が激しくなって選手寿命も短くなり、

40歳前後で人生のセカンドステージを迎えることを考えると、

(現在の競輪選手の平均引退年齢は44歳)

①選択肢の少なさ

②視野狭窄と視点の低さ

を改善するためにも、

リカレント教育と無形資産を築くことも考えたほうがよい。


■リカレント教育

大人になって社会人になった後、再度勉強をし直す。

■無形資産

現金や家や株など、有形資産とは逆に形のないもの

メンターや心の拠り所となるコミュニティ、家族や友人など、

人生100年時代と言われる現代において、

長く充実した人生を送るには、

無形資産も大事な要素になる。

これは、LIFE SHIFTという有名な本に載っているので、

参考にしてもらいたい。

要約すると、

平均寿命は、年々延びていて、

私達30歳前後の世代は、

100歳近くまで生きるのが普通になるだろうと。

平均寿命がここまで長くなかった昔は、

教育期間20年、仕事期間40年、老後期間60歳〜死去(70〜80歳ぐらい?)

の3つのステージで構成されていたが、

100年時代になると、

60歳で引退した後が、あまりにも長すぎる。

さらに、VUCA時代と呼ばれる

Volatility(変動性・不安定さ)

Uncertainty(不確実性・不確定さ)

Complexity(複雑性)

Ambiguity(曖昧性・不明確さ)

の高い、経営環境や個人のキャリアを取り巻く変化の激しい時代において、

20歳前後まで学んだ学習内容では、対応しきれないことから、

リカレント教育と言われる、大人になって学び直すことも注目されている。

学ぶ⇒仕事⇒学ぶ⇒仕事のように一定期間ごとに区切って、仕事と学びを繰り返すパターン

仕事と学ぶことを同時にこなすパターン

など、いろんなパターンや学ぶ期間も人それぞれ。

情報インフラが整い、副業を行うにも大きな投資もいらず、

限界費用もゼロに近づき、

マルチタスクでいろんなことが可能な世の中になっている。

リカレント教育を行いながら、

無形資産を作り、長い100年時代において充実した人生を送ろう!

というのが、LIFE SHIFTに書いてあることだ。

寿命も延びて、確実に競輪以外のことをしなければいけない、これからの若い選手にも、

ぜひこの考えを頭の隅に置いておいてもらいたい。