【COO/CHRO代行のリアル⑦】 事業戦略と採用戦略を連動させる「月1回の経営会議」
【サマリー】
なぜ事業と採用は連動しないのか?第4回で語ったCOOとCHROの二刀流の重要性を、今回は具体的な「型」に落とし込む。私がCOO/CHRO代行として実践する「月1回の経営会議」を通じて、事業戦略と採用戦略を一体化させるプロセスを解説。経営者が陥りがちな「認識のズレ」を解消し、組織が事業成長を牽引するようになるための本質的なアプローチを公開する。
【この記事で分かること】
・事業戦略と採用戦略が連動しない根本的な理由
・COO/CHRO代行が実践する「月1回の経営会議」とは何か
・経営会議で事業と採用を連動させる具体的な3ステップ
・地方中小企業が「人」の壁を乗り越え、事業を成長させるための「型」
【こんな経営者におすすめ】
・年商3〜10億、従業員10〜50名規模の成長企業
・事業計画はあるが、採用計画が常に後手に回っている
・「事業を成長させたいのに、人材が足りない」と悩んでいる
・社長が一人で経営課題を抱え込み、解決策が見えない
【本文】
なぜ事業戦略と採用戦略は連動しないのか?
第4回で、私はCOOとCHROの「二刀流」の重要性を語った。事業戦略と組織構築は、システム思考で一体的に捉えるべきだと。しかし、現実の多くの企業では、この二つがバラバラに機能している。
「攻めの事業計画」は描けているのに、それを実行する「人」の計画が追いつかない。 経営者は「売上を倍にする!」と号令をかけるが、現場は「今の人数じゃ無理だ…」と疲弊する。 採用担当者は「とにかく人を採れ」と言われ、目の前の頭数合わせに奔走する。
なぜ、こんなことが起こるのか? 根本的な理由は、「経営者が一人で全体を抱え込み、かつ事業と採用を異なる時間軸で考えている」からだ。
事業計画は年単位、四半期単位で綿密に練られる。 一方で採用計画は、「人が辞めたら補充する」「事業が立ち上がったら採用する」といった後手後手の対応になりがちだ。
これが、事業戦略と採用戦略が「絡み合っている」(第4回での言葉を借りれば)にも関わらず、実際には「見えない壁」で分断されている状態を生む。
実例:事業計画と採用計画がバラバラだった地方製造業
実際にあった西日本の金属加工業(年商6億、従業員30名)での話だ。
社長は3年後の新規事業立ち上げを見据え、デジタル技術者を3名採用する計画を立てていた。しかし、その計画は社長の頭の中にしかなく、採用担当者には「とりあえず若手を採用してくれ」という指示に留まっていた。
採用担当者は社長の意図を汲み取れず、業界経験者の中から既存業務にマッチする人材を探し、年間1名程度の採用が精一杯だった。
結果、新規事業立ち上げに必要な技術者は集まらず、ローンチは1年遅れ。さらに、既存事業のベテラン社員が定年退職を迎える時期が重なり、現場は慢性的な人手不足に陥った。社長は「なぜ、こんなに人が集まらないんだ!」と激怒したが、採用担当者は「地方だから無理です」と答えるしかなかった。
まさに、事業の未来と組織の現状が、完全に分離していた状態だ。
「月1回の経営会議」とは何か?
この見えない壁を壊し、事業と採用を連動させるのが、私がCOO/CHRO代行として実践する「月1回の経営会議」だ。
これは、単なる進捗報告会ではない。 社長と私が、会社の未来図(事業戦略)と、それを実現する「人」の青写真(採用・組織戦略)を、徹底的に「壁打ち」する場だ。
なぜ「月1回」なのか? 事業環境は常に変化する。四半期に一度では遅すぎるし、毎週では細かすぎる。月1回のペースで、事業の進捗、市場の変化、そして組織の現状をタイムリーに確認し、採用・組織戦略を調整する。このリズムが、事業と組織の間に生まれる「ズレ」を最小限に抑えるのだ。
経営会議で事業と採用を連動させる3つのステップ
この「月1回の経営会議」では、主に以下の3つのステップで議論を進める。
ステップ1:事業計画の「因数分解」と「未来予測」
まず、社長が描く短期・中期事業計画を徹底的に因数分解する。
- 「来期、売上を20%伸ばす」という目標なら、「どの顧客層に」「どの商品を」「誰が」「どのような方法で」売るのか?
- 新規事業を立ち上げるなら、「いつまでに」「どのような技術や専門性を持った人材が」「何名」必要なのか?
単なる数字の羅列ではなく、具体的な行動と、それに伴う「未来の組織像」を具体的に言語化する。このフェーズで、社長の頭の中にある「漠然とした未来」を、採用担当者でも理解できる「具体的な絵」に落とし込むのだ。
ステップ2:現状の「組織キャパシティ」との比較と「ギャップの特定」
事業計画が明確になったら、次に現在の組織キャパシティと比較する。
- 「来期必要な営業担当は5名増。今のメンバーで賄えるのか?」
- 「新規事業に必要なデジタル技術者は、社内にいるか?いるなら育成で間に合うか?いないなら外部から採用する必要があるか?」
ここで、「必要な人材」と「現状の組織」の間に存在する「ギャップ」を明確にする。このギャップこそが、採用・組織戦略のボトルネックだ。このフェーズで、採用担当者は「ただ人を採る」のではなく、「事業計画達成のために、具体的にどんな人材が、いつまでに、何名必要なのか」という明確なミッションを持つことができる。
ステップ3:採用・育成戦略の「連動設計」と「優先順位付け」
特定されたギャップを埋めるための具体的な採用・育成戦略を練り、優先順位を付ける。
- 「デジタル技術者は、緊急度が高いから中途採用とスカウトを並行して行う」
- 「営業担当は、新卒採用でポテンシャル層を確保し、3ヶ月間のオンボーディングで即戦力化を目指す」
採用チャネルの選定、求人票のメッセージ、選考プロセス、内定者フォロー、そして入社後のオンボーディングや育成計画まで、一貫した戦略を設計する。同時に、事業計画の変更や市場の変化に応じて、この採用・育成戦略を柔軟に調整する「型」も構築する。
これにより、採用活動は単なる「補充」ではなく、事業を推進するための「戦略的な投資」へと変わるのだ。
月1回の経営会議で変わったこと
前述の西日本の金属加工業では、この「月1回の経営会議」を導入後、劇的な変化が生まれた。
社長は「事業計画が、初めて生きた採用計画になった」と語る。 採用担当者は「社長の考えていることが手に取るように分かった。だから、具体的なターゲットと打ち手を考えられるようになった」と。
結果、新規事業に必要なデジタル技術者の採用は遅れを取り戻し、ローンチは予定通りに。さらに、既存事業の退職者補充も先手を打てるようになり、慢性的な人手不足は解消に向かった。年間1~2名だった採用は、今では年間3~4名以上の人材を安定的に獲得できる組織へと変わった。
これは、単に「採用がうまくいった」という話ではない。 事業戦略と採用戦略が密接に連動することで、組織全体が未来志向になり、社長一人の負荷が軽減され、採用担当者も戦略的なパートナーへと昇華した。
まさしく、第4回で語った「事業と組織はシステムシンキングで一体的に捉えるべき」という本質が、この「月1回の経営会議」という「型」を通じて実現されたのだ。
この記事のまとめ
- 事業戦略と採用戦略が連動しない理由は「経営者が一人で全体を抱え込み、かつ両者を異なる時間軸で考えている」から。
- COO/CHRO代行が実践する「月1回の経営会議」で、事業と採用の「見えない壁」を壊す。
- 経営会議の3ステップ(事業計画の因数分解、組織キャパシティとの比較、戦略の連動設計)により、採用は「戦略的な投資」へと変わる。
- 結果、採用のミスマッチが減り、組織が事業成長を牽引できるようになる。
よくある質問
Q1. 月1回の経営会議、誰が参加するのですか?
A1. 基本は社長とCOO/CHRO代行の1on1です。必要に応じて、CFOやNo.2も参加します。
Q2. 1回の経営会議で、どのくらいの時間がかかりますか?
A2. 90分〜120分です。事業計画の確認、採用計画との連動、課題の壁打ちを行います。
Q3. オンラインでも可能ですか?
A3. はい、可能です。ZoomやGoogle Meetで実施しています。
次回予告
第8回:なぜ、優秀な人ほど辞めていくのか?──カルチャーフィットの本質と離職防止の型