【COO代行のリアル⑪】赤字企業を黒字に変えた、たった一つの「問い」の力
サマリー
赤字企業をV字回復させたのは、正解を探すことではなく、経営課題の本質を問う「問い」を立て、「問い→実行→振り返り→学習」のサイクルを回すことだった。COO代行が現場で実践した、組織学習を促し、赤字を黒字に転換させたケーススタディ。
導入:多くの社長が陥る罠──「答え探し」が真の解決を遠ざける
「なんとかして、来期こそ黒字にしたいんです」 あるベンチャー企業の社長は、切羽詰まった表情で私にそう言った。
売上は右肩上がり。事業は順調に拡大しているように見える。しかし、その裏で営業利益は常にマイナス。採用コスト、マーケティング費用、システム開発費…投資が先行し、いつまで経っても利益体質に転換できない典型的な「成長痛」の状態だった。
社長は、私に「黒字化するための特効薬」や「具体的な施策」という"答え"を求めていた。だが、私がCOO代行として現場に入って最初に取り組んだのは、「答えを出すこと」ではなく、「問いを立て直すこと」だった。
多くの経営者は赤字を前に「どうすれば?」と答えを急ぐ。だが、その問いこそが、思考を「現状維持」や「守り」に閉じ込め、真の解決を遠ざける落とし穴だった。なぜ、彼らは「問い」を根本的に変える必要があったのか
── このnoteで、そのリアルなケーススタディを解き明かす。
社長が追い求める「答え」は、常に「問い」の中にある
私がそのベンチャー企業に最初に介入した際、彼らのミーティングでよく耳にしたのは、過去の施策に対する「なぜうまくいかなかったのか?」という振り返りだった。
もちろん、失敗の原因分析は重要だ。だが、そればかりでは組織は疲弊し、過去の失敗に囚われてしまう。 そこで私は、彼らの「問い」のフォーカスを根本的に変えることにした。
Before:「なぜ、あの広告は効果が出なかったのか?」
After:「次に、顧客がもっと喜ぶために、どのチャネルで、どんなメッセージを試すべきか?」
Before:「なぜ、あの新規事業は撤退したのか?」
After:「この事業で、最小コストで顧客価値を検証するには、次に何ができるか?」
この「問い」の変化が、組織全体に波紋を広げた。 過去の失敗を責める空気は消え、未来への可能性を探るポジティブなエネルギーが生まれていった。
「問い→実行→振り返り→学習」のサイクルを仕組み化する
「問い」が変わっただけでは、まだ何も変わらない。 重要なのは、その新しい「問い」を軸に、愚直な学習サイクルを回すことだ。
- 問い(Question):
- 顧客価値の最大化、競合優位性、収益性向上など、具体的なテーマに沿った「次の一手」に関する問いを言語化する。
- 例:「月額課金モデルで、顧客継続率を1%上げるために、次に何を試すべきか?」
- 私の役割は、社長と現場のメンバーが、本当に意味のある「問い」を立てられるよう、ファシリテーションすることだ。
- 実行(Do):
- その問いに対する「仮説」を立て、小さく、素早く「実行」する。MVP(Minimum Viable Product)の精神だ。
- 例:新しいオンボーディング施策を、まずは特定顧客セグメントに限定して実施する。
- 第9回で話した「48時間ルール」は、この「実行」の速度を上げるための強力なOSとして機能した。
- 振り返り(Review):
- 実行した結果を客観的なデータ(KPI)と定性的な顧客の声で「振り返る」。
- 「うまくいった/いかなかった」だけでなく、「なぜ、そうなったのか?」を深く掘り下げる。この時、第3回で触れた「数字と言葉の翻訳」が役立った。
- 感情論を排除し、事実に基づいた振り返りを徹底させる。
- 学習(Learn):
- 振り返りから得られた教訓を「学習」し、次の「問い」を再設定する。
- 「この仮説は正しかったのか?」「次に検証すべきは何か?」「この結果から何が言えるのか?」
- このサイクルを回すことで、組織の「知」が蓄積され、より精度高く、より早く、事業を前に進められるようになる。
現場の一コマ:問いが組織の「OS」になる瞬間
最初は、「何を問えばいいのか分からない」という声も多かった。 しかし、私が毎回の定例会議で、ホワイトボードの真ん中に大きく「今日の問いは?」と書き、徹底的に言語化を促した。
ある時、一人のマーケティング担当者が、こう発言した。 「これまで、CPA(顧客獲得単価)を下げることが目標だと思っていました。しかし、顧客の声を集約した結果、高CPAでもLTV(顧客生涯価値)が高い特定の顧客層がいることが判明しました。本当に問い直すべきは『この顧客層は、いくら払ってでも得たい価値を、私たちが提供できているか?』ではないか、と。それが高ければ、CPAは二次的な問題だと気づきました」
この瞬間、彼らの「問い」が、単なる数字の追いかけっこではなく、顧客提供価値の追求へとシフトしたのだ。 この新しい問いに基づき、彼らは施策を再構築し、驚くべきことに、その3ヶ月後には目標未達だったKPIが大幅に改善。そして、半期後には単月黒字化を達成した。
まとめ:赤字を止める「特効薬」は、正しい「問い」である
赤字を黒字に変える特効薬は、特定の「答え」ではない。 それは、組織全体が「正しい問いを立て、愚直に学習サイクルを回し続ける」というOSをインストールすることだ。
COO代行の仕事は、その「OS」を設計し、導入し、社員一人ひとりがその「問い」を通じて自律的に成長し、組織全体が学習し続けられるよう伴走することだ。
「答え」を探すのをやめて、「問い」の質を高めることに集中しよう。 あなたの会社は、今、どんな「問い」を立てているだろうか? もし、その問いが現状維持や問題回避に終始しているなら、私たちがその問いを根本から見直すお手伝いができます。