SmartHR 宮田

組織づくりには「透明性」が必要|河合聡一郎氏と考える、スタートアップに必要な採用・組織づくり #2 SmartHR CEO 宮田昇始氏

スタートアップに必要な「採用・組織づくり」のポイントについて河合聡一郎氏と探求する新連載。2回目はクラウド人事労務ソフトで躍進する株式会社SmartHR代表取締役・CEOの宮田昇始氏です。透明性の高い組織づくりをしていても、コロナ禍で予期しなかった組織の課題にぶつかったとのこと。SmartHR社の組織づくりの変遷や秘訣について河合聡一郎氏が迫ります。

株式会社SmartHR
代表取締役・CEO
宮田昇始 氏

大学卒業後、Webディレクターとしてキャリアをスタート。BtoBや、医療系を中心にWebサイトや、アプリケーションのディレクションを複数の企業で担当。
2012年、10万人に1人と言われる疾患を発症。完治の見込みは20%と宣告を受けるも、闘病期間中に傷病手当金(社会保険の一つ)を受給できたおかげで、リハビリに専念し無事完治。社会保険のありがたみを身をもって感じる。その後、2013年に株式会社KUFU(現株式会社SmartHR)を創業。会社のなかで、経営者として社会保険手続きの煩雑さに課題を感じ、SmartHRを発案。2015年1月にシードアクセラレーターであるOpen Network Lab に第10期生として採択される。
SmartHRの登録企業数は公開後約5年で30,000社を突破。2019年にはシリーズCラウンドで海外投資家などから62億円の資金調達。
https://www.wantedly.com/id/shoji_miyata

採用資料公開の発明。 年間で1万人の応募がある企業へ成長

 

河合聡一郎氏(以下、河合):本日はよろしくお願いします。SmartHR様はクラウド人事労務ソフトで業界シェアNo.1のスタートアップです。創業期から現在に至るまで、どのような採用活動や組織運営の変遷を辿られたのかをお伺いできればと思います。まずは採用活動で申し上げると、現在では知名度も上がり、さまざまな施策も相まって、応募数もかなり増えているのではないでしょうか?

宮田昇始氏(以下、宮田):このインタビューに際し、あらためてSmartHR社にどれだけ年間で採用応募があったか確認したところ、2020年は1万人以上の方にご応募頂いていました。2018年は800人程度だったのでここ数年で10倍近く増えた計算になります。

 

現在社員数は毎月15人程増加。2020年初旬には全体で180人程度だったのが、2021年には350人規模と倍になりました。

河合:それは文字通りの急成長ですね。SmartHR様の採用といえば「採用ピッチ資料」の公開が有名です。資料コンテンツをはじめとして、この公開はスタートアップにおける採用活動において、大きな発明だったと思っています。なぜ、採用ピッチの公開に踏み切ったのでしょうか。

宮田:採用ピッチ資料の公開は2018年の8月ですね。採用人数が増えて面接の場に出る社員も増えたため、「話す内容がバラバラ」になっていました。これでは入社後の双方の期待値がズレてしまいます。そこで、社内と社外の期待値をそろえるために公開しました。

SmartHR社の採用ピッチ資料

加えて、「自分たちでは良い会社だと思うけれど、イマイチ魅力が伝わっていない」という感覚を持っていました。数多ある企業の求人広告には、良いことしか書いてありません。差別化のために「昇給テーブル」や「決算内容」等もすべて見せてしまった方が良いという判断です。

もう一つ、「すでにある情報だから外部に公開してもいいよね」という感覚も持っていました。当時はエンジニア採用に苦戦しており、半年間エンジニアが1人も採用できていませんでした。「給与が低い」と噂されることもありまして。「転職ドラフト」を利用した際に、「オファー金額がやたら低くない?」と言われてしまうことも。そんな状況の中で、「エンジニアたちに会社の実情を知ってもらうきっかけになるのではないか」という期待もあったのです。

河合:SmartHR様の採用ピッチ資料は毎回拝見をしておりますが、採用候補者を投資家に見立てて、「いかに自社を選んでもらうか」という観点から、さながら資本市場にアプローチするIR資料の様だと思っています。また、継続的にアップデートされるのも含めて、決算発表のようです。「こういう市場で、こんな特徴がある企業です。こういう成長をしています。今後の事業戦略はこういう形です。その上で、ココはまだ課題があります。だから一緒にやってみませんか」といったような意味合いともとれるアプローチが斬新だなと思っていました。

宮田:「SmartHRと合わない方からの応募も増えて面接が大変になるのでは」という声もあったのですが、結果的にはマッチする方からのご応募が増えてプラスでしたね。

合わせて、Wantedlyも積極的に活用していて、プロダクトからビジネスサイドまで広く採用できるのはよいですね。全社員の13%ほどがWantedly経由です。スタートアップ企業の採用にはやはり相性が良いと思います。

組織運営において重要なのは、「社員が会社の戦略にどれだけ納得しているか」

 

河合:SmartHR様はSlackのオープンチャンネルの利用率が非常に高かったり、売上や利益から会社の銀行口座の残高を公開したりなど、とても透明性が高い組織を創ってらっしゃいます。このような施策の背景にはどんなお考えがあるのでしょうか?

宮田:そもそも、僕自身が怠け者で、弱い性格なんです。たとえば、会社のお金を僕が使い込んだりしないように、そもそも僕が会社の銀行口座には触れられない仕組みにしています。

不正が起きるのは「動機」「機会」「正当化する理由」の3つが揃ったとき、と言われています。たとえば、横領の場合は「ギャンブルで負けた借金を返したい」や「誘拐された子どもの身代金が欲しい」といった「動機」があり、銀行口座の暗証番号を知る「機会」があり、「社長はあんなに経費を使い込んでいる」や「入社後に給与を下げられたし約束が違う」といった「正当化する理由」があると、横領が実際に行われる。

自分を含め、人間は弱い存在だと思っています。機会や正当化する理由をなくすために全社の給与情報もオープンにして、市場からあまりに乖離した給与設定にしないなど気を遣っています。自分が弱いからこそ、仕組みで解決する環境を作るようにしています。

 

河合:人の特性や事象が発生するメカニズムを踏まえて、防止を目的として仕組化をされるのが素晴らしいなと思いました。SmartHR様で働くことがどれだけ良い環境なのか、具体的にイメージできるかと思います。情報の透明性を意識されている中、SaaSというビジネスモデルを体現する、組織運営についてもお伺いさせてください。よくSaaSの組織は機能別で、やることが明確な一方、組織が分断されがちと言われます。横のつながりを保つために取り組んでらっしゃることはあるのでしょうか?

宮田:よく、営業と開発の仲が悪いという話がありますよね。営業は「こんな売れないモノ作ってどうするんだ」と怒り、開発は「また営業が面倒な案件を持ち込んできた」と。私も過去3社ほど勤めましたが「仲が悪くなりやすい」と思っていました。でも、SmartHRはそのような問題がまったくない組織だと思っています。
SmartHRでは相手をリスペクトしてコミュニケーションを取れる方が多い。やはり、採用した人が良い人だったのだと思っています。営業で「売ればいいや」だったり、開発も「技術だけ突き詰めればいい」という考えの方はいません。SaaSのプロダクトは売り切りではなく、お客様に契約して頂いてからがスタートです。お客様に使い続けてもらうという、営業も開発も目的が一致するのがよかったのではと思っています。

加えて組織運営において重要なのは、「社員が会社の戦略にどれだけ納得しているか」です。元リンクアンドモチベーションの麻野耕司さん曰く、「モチベーションの指標がどこかで壁にぶつかり、ガクッと下がることはない。緩やかに低下するか、高く保った状態をキープするか」と。そして、その高く保てている組織は「戦略への納得感」があるそうです。たとえば、「今期は更に売上10億円を達成する」と急にアグレッシブに社長が掲げたとしましょう。「どうやって?」とメンバーが思っているなかで、「その方法はみんなで考えるんだよ」と社長から丸投げされたら、「何の根拠もないんだ」とモチベーションは下がりますよね。SmartHRでは半期ごとに丸一日かけてコミュニケーションして、戦略を話すようにしています。

オフィス環境も透明性を担保するためにこだわっているポイントがあります。これまでの8年間で5回ほど引っ越しをしているのですが、なるべくワンフロアで全員の顔が見えるオフィスを選んでいます。2番目に入った六本木一丁目のオフィスが、ワンフロアだったものの大きな柱があり島が分断されていて。一方の島は和気あいあいとしつつ、もう一方は殺伐としている雰囲気があったんです。それ以降、壁や柱がないオフィスを選び、会議室も扉は開けっ放しにしています。

コロナ禍ではじめて感じた「組織の壁」

 

河合:現在、社員数が350人を超えていらっしゃいます。スタートアップでは、よくテーマになる30人、50人、100人と人数が増えると組織も課題が出てくる「壁」が存在すると言われますが、SmartHR様では課題はあったのでしょうか?

宮田:正直、200人弱くらいになっても「組織の壁」を感じたことはありませんでした。初めて感じたのはコロナ禍の2020年以降です。毎月15人前後が入社しており、入社2か月目の方を対象に自社サーベイを実施しているのですが、完全にテレワークになった2020年4月入社の方から数値がガクッと下がりました。それまで7割くらいの方が「良い感じで働けている」と回答していたのに、「働くのがしんどい、難しさを感じる」と回答する方が増えてしまった。

画面越しだけでなく、実際に顔を合わせなければ、会社への帰属意識を持てなかったり、「会社に馴染めた」と感じられなかったりする方もいるのだと思います。そこで、2020年9月からはテレワーク推奨から任意に変えたり、入社初日は出社してもらい、オンボーディングのやり方をチームに任せる形にしました。ただ、2021年2月現在は緊急事態宣言下なので再度テレワークに切り替えています。この問題はコロナ禍が終わるまで行ったり来たりするでしょうね。

河合:テレワークと言う環境下においては、社員がどのように働けばいいのか、コミュニケーションにおいても、1つ1つのコンテクストが見えづらいのが課題ですよね。とくに新しく入った社員はなおさら。対面で会って信頼関係を醸成し、オンボーディングで立ち上がって自走できるまでは、これまで以上に丁寧で密なコミュニケーションが求められると多くの企業様を見ていて思います。

宮田:もう一つ、2020年7月にバリュー「認識のズレを自ら埋めよう」を追加しました。チーム間の問題は突き詰めるとお互いの前提がズレていることが多い。認識のズレを埋めるのを良しとするバリューです。打ち合わせの回数が増え、コミュニケーションコストが高くなる可能性がありましたが。結果的に使いやすい言葉で、「ズレ埋めしていいですか?」というコミュニケーションが増えたり、「ズレ埋め」というemojiが作られたりと社内では浸透はしているとは思います。

河合:会社の状況に合わせてバリューを追加され、そしてしっかり目的に沿って使われているのですね。宮田さんが浸透のために何かやっていらっしゃることはあるのでしょうか?

宮田:そもそもバリューを作るときたくさん調べたのですが、「崇高な理念よりも覚えやすいマントラ」という言葉があり、とにかく口に出しやすいバリューにしようと思っています。

当社のバリューには他に「早いほうがカッコイイ」や、「最善のプランCを見つける(普段は“プランC”と省略して呼ばれる)」を定めているのですが、言いやすいんですよね。バリューにマッチしている行動を取っていたら評価も高くなる評価制度にしています。

河合:言いやすさはまさに大切ですよね。そして評価制度とも連動されている。そもそもですが、こうした組織を運営する上で欠かせないミッションやバリューはどのような経緯で決まっていったのでしょうか?

宮田:ミッションは「社会の非合理を、ハックする。」ですが、元々これを定めたのは採用目的です。SaaSなのでエンジニアが採用できなければプロダクトは作れません。ですが、創業当初は全く採用できなかった。なぜ採用できないのかを他の経営者に相談したところ、「ミッション・バリューがない会社には人は集まらない」とアドバイスを頂きました。そして、エンジニアに刺さるように「非合理」や「ハック」といったエンジニアに馴染みのある言葉を入れてみたんです。共同創業者の内藤と、元々友人だった現VPoPMMと、前CTOに「一緒に作ってよ」と合宿を頼み込み、ミッション・バリューを作り込みました。そのメンバーたちも結果的に入社してくれました(笑)。

バリューを定めて実際に会社組織で運用していった結果、エンジニアたちからも「SmartHRは良い会社」と徐々に認知が上がっていったと思っています。

河合:バリューの数よりも、説明しやすさは大事ですよね。そういったミッションやバリューがあるからこそ、今のSmartHR様の組織への認知が上がっていかれたと。そしてそれが、お客様に愛されるプロダクト創りに繋がっているんだなと感じました。

宮田:コロナ禍で飲食店様の経営が厳しい状況ですが、有り難いことにSmartHRの継続利用率は99%とこれまで以上に使っていただいています。難しいことを面白がれる、そんな組織を作っていきたいですね。

 

著者プロフィール

上野智

Writer

1986年長野県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、編集プロダクションに在籍し『週刊SPA!』や『ダイヤモンドZai』などでコンテンツを製作。 株式会社カカクコムを経て、株式会社ビズリーチ(現ビジョナル・インキュベーション社)のWEBメディアBizHintの企画や編集を担当中。

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