ここ10年で起きたスタートアップ採用の変化|#0 河合聡一郎氏×ウォンテッドリー川口

2010年代を振り返るとスタートアップを取り巻く状況は一変しています。それに伴って採用や組織づくりのあり方も大きく変化しました。

今回ウォンテッドリーでは成長フェーズごとに必要な「採用・組織づくり」のポイントについて、各企業のCEOや人事責任者との対談を通じて探求する連載を開始することになりました。

聞き手にはスタートアップを中心とした組織人事支援を行いながら、エンジェル投資家としても活動する河合聡一郎氏をお迎えします。河合氏はスタートアップの立ち上げ期の経験や、その後は自身も創業メンバーの1人として、組織人事や採用に関する実務を経験してきました。加えて、大手メーカーや外資系IT企業など多様なキャリアの持ち主です。現在は代表である株式会社ReBoost社にて、スタートアップを中心に、首都圏のみならず地方も含めた企業に対して、幅広く組織人事支援やエンジェル出資を通じて、企業がより成長するための支援をしています。

本連載を記念し、初回はウォンテッドリー株式会社の執行役員川口かおりと「ここ10年間で起きた変化」について語ります。

株式会社ReBoost
代表取締役社長
河合 聡一郎 氏

大学卒業後、東証1部の印刷機械メーカー、リクルートグループを経て株式会社ビズリーチの立ち上げ期を経験。その後、セールスフォース・ドットコム、再び印刷機械メーカーを経て、ラクスル株式会社の創業メンバーとして参画。人事マネージャーとして採用/人事組織をはじめとした会社創りを牽引。同時期に数社のスタートアップの創業、出資を含めた複数社の社外アドバイザーも兼務。
2017年に株式会社ReBoostを創業し、代表取締役に就任。「変革者の挑戦を支援し、より良い社会づくりを。」をミッションに、スタートアップや上場企業、地方ベンチャーに対して、事業戦略の実現に向けた人事組織や採用戦略の策定及び実行、valueや人事評価制度の策定などのハンズオン支援を行う。
また約25社へのエンジェル出資を通じた次世代起業家のサポート及び、シードVCとの事業提携を通じて、出資先スタートアップの組織/人事領域の支援を提供。
2019年:厚労省主催の「グッドキャリア企業アワード2019」にて基調講演を担当。
2020年4月:iU専門大学の客員教員に就任。

ウォンテッドリー株式会社
ビジネス執行役員
川口 かおり

早稲田大学卒業後、競泳選手のマネジメントに従事。2007年リクルートエージェント(現リクルートキャリア)に入社。コンシューマ領域の法人営業、新規事業立ち上げ、事業開発部門のマネージャーを経験。2015年にはシンガポールのHRテック企業でのマネジメントを経て、2017年10月より現職。

スタートアップを取り巻く採用市況の大きな変化

 

河合聡一郎氏(以下、河合):Wantedlyは2012年にサービス開始されました。これまで多くの企業の採用支援を行ってきたと思います。約10年近い期間の中で、その間に起きてきた採用周りの変化についてどうお感じでしょうか?

川口かおり(以下、川口):まず、「スタートアップの採用」が当たり前の時代に変わりましたよね。2010年以前はまだ“ベンチャー企業”との差がなく、知名度のない企業に良い方が応募することは多くない時代でしたが、現在では中途採用も新卒採用でもスタートアップへの入社が選択肢に入るようになりました。「なんで、そんな知名度のない会社に転職するの?」という雰囲気から、やりがいや自己成長を求めてスタートアップを選択肢に入れる方も少なくない状況です。

そもそも、スタートアップには「企業の知名度が低く誰も応募してくれない」という特有の悩みがあります。世の中を変えるビジョンはあるけれど、リファラル採用の範囲を超えられない。そんなときにWantedlyが活躍します。「想いを持った会社を応援する」ツールとして採用コストを抑えながら良い人材とマッチングできる。実際、Wantedlyをスタート直後から導入いただき、成長し上場した企業にはfreee様やマネーフォワード様、クックパッド様などがあります。

河合:なるほど。ここ数年ですが、振り返ってみるとSNSの浸透や、そこに対する情報アクセスへの感度が上がり、企業内の情報への透明性が求められるようになってきたと思います。そのため、「企業側が主体的に、採用したいターゲットに対して情報発信をしないと採用市場で選ばれない」時代になったと感じています。そもそも、企業の存在自体を知ってもらわないことには選択肢にすら挙がりません。そのなかで、Wantedlyの企業紹介のフレームでもある、「なにをやっているのか」「なぜやっているのか」「どうやってやっているのか」は、企業を知ってもらうために最初の表現するべきフレームとなりました。それが後に、「採用広報」という言葉となり浸透しています。必要な人材に情報提供をした上で、よりミスマッチの少ない採用を行う文化の下地になったと思います。

川口:もう一つ「カジュアル面談」も一般的になりました。応募への意思や職務経歴書がなくても構わず、その場に社長が出てきて「カジュアルに話をする」のは画期的だったと思います。企業にとっても応募者にとっても、双方を知れると想いが伝わりやすくなり共感を呼びます。

採用におけるポイントはなんと言っても「ミスマッチを起こさないこと」。「誰でも良いから人手が欲しい」という企業は少数派で、正しい人が正しい企業にマッチングされるのが重要です。ただ、長年企業が人を選ぶ採用が一般化しており、受けに来た人は選ばれるための言動をするのが当たり前になり、結果適材適所になってはいませんでした。

企業も応募者もどちらかが優位ではなく、お互いに選び合う形になりました。カジュアル面談はそれをフラットに実現する場だと思います。

 

河合:ミスマッチは双方の期待値のズレから発生すると思っています。マッキンゼー社の書籍『ウォー・フォー・タレント(人材育成競争)』の世界観が現実のものになり、優秀な人は取り合いです。そのために、企業側は、自社が採用したいと考えている候補者をまずは言語化し、そのターゲットに対して「認知から選考プロセスを通じて、選ばれる理由を創る」ことが求められてきています。

海外の文献を見ると、「人的リソースの確保」の観点から採用には4つのBがあると言われています。「即戦力となる人材に中途で入社してもらう(Buy)」「若手社員や幹部候補に対して、戦力になってもらうための育成をする(Build)」「業務委託などの外部から人の手を借りる(Borrow)」「オペレーティブで人が取り組まなくても良いことは自動化する(Bot)」です。組織として優秀な人材を獲得し活躍してもらうためには、BuyやBuildの視点も持ちながら、BorrowやBotも組み合わせながら取り組むことが重要だと言えます。

そうした中で、人材獲得においてまずは相互理解をフラットな状態で行うためにも、カジュアル面談の果たす役割は大きくなってきていますよね。

 

河合:2019年にはスタートアップに約4,000億円近い資金が投下されたこともあり、待遇面ではほぼ大手企業と変わらなくなってきていると言えます。そこで、より必要なのは「世の中を“こう”変えるのが面白そう」や「優秀な人と働いてみたい」、「自分で主体的に事業や組織を創ってみたい」といったビジョンへの共感やミッションへのワクワク感をいかに企業側が創り出し、伝えられるかだと考えています。

そして、多くの企業が、先ほど申し上げたビジョンやミッションに共感をして入社してもらわないと“長く働き続けられないし、“活躍してもらえない”と気がついています。企業側は「どんな想いで自分の会社を選んでいただきたいか」をこれまで以上に考え抜かなければならないと感じています。

これからの時代に企業に求められる採用のあり方

 

川口:その上で、スタートアップ企業に限らず、これからの時代で採用するために企業に求められるのはどんな要素でしょうか?

河合:まず、「共感の言語化」が必要だと思います。スタートアップの創業当初で言えば、豊富な資金や、プロダクト、もちろん顧客もありません。創業者のバックグラウンドやなぜ起業をしたのか、そしてこれからどんなマーケットに対して、誰のどんな課題をどうやって解決していきたいかを明確に言葉にすることです。まずはこれでしか仲間は集められません。そして、これで集まってくれた仲間と一緒に、事業づくりや最初の組織づくりをしていくべきだと思います。

その後は企業が置かれているフェーズによって、「組織がどういう現状で、どうなっていくべきなのか」といった視点から共感を広げていきます。たとえば、ビジネスモデルの特異性や、「市場におけるお客さまと自社の関係性はどうなっていくべきか」といった面白さなど。事業フェーズが進んでいくとIPOするなどの分かりやすいイベントもあります。ステークホルダーが様々な株主に変わっていくので、共感をしてもらう相手やその内容も、これまでとは異なり、変化をしていきます。

川口:単純に会社サイトの情報をコピペしてSNSやブログに発信するのではなく、様々なチャネルで自分たちが伝えたいことを、伝えたい人に届けることが必要ですよね。

河合:主体的な情報発信が上手い会社はフェーズ毎にメッセージングを変えているなと思いますね。いま「自分たちが採用市場でどう見られているか、見られたいか」を加味したり、「ビジネスモデルがどう変わってどう受け止めて欲しいか」など魅せ方が上手です。また、採用市場だけでなく「自社にいるメンバーからどう思ってもらいたいか」を循環させています。

また、これまで「クローズドにしていた情報をオープンに」するのも必要になってくるでしょう。たとえば、給与テーブル自体をオープンにされている会社様もありますよね。自社について知ってもらうのが大前提です。隠している企業はその情報にもよりますが、もしかしたらオープンにしている会社と比べて、採用活動上では不利になる可能性もあるでしょうね。

川口:給与に関する情報はクローズドな情報の典型ですよね。また、社内の都合の悪い部分でもオープンにすれば、課題にマッチする人が現れる可能性があります。

河合:加えて、もう一つ大きく変わったのは「経営陣が採用にコミット」することですね。むしろ、徹底的にコミットしないと勝てない状況になっています。これまでのように採用は人事だけの仕事ではなくなりました。企業によっては、「事業責任者は採用するのが当たり前」といった約束事を、評価制度を通じて社員に求めている企業もありますね。

採用へのコミットは短期的に行う話ではありません。これまでの経験からご支援先や出資先に対して、採用活動は「Hiring」と「Seeking」があることを私なりの解釈を交えて伝えています。Hiringは「今、必要な人材を採用しようという比較的時間軸が短い」採用活動。Seekingは、「将来を見越した、事業成長に欠かせない人材を探し続ける時間軸が長い」採用活動のことです。

 

河合:事業成長を大きくドライブできる優秀な経営幹部候補は、立場的にすぐに転職できる方ばかりではありません。今、引いている事業計画からさらに時間軸を伸ばして、その時の組織図イメージをベースに1年後や数年後を見据えて探し続けなければいけません。

その意味では、「採用活動をやり続けている会社」は強いです。採用の手を緩めませんね。直近で採用計画がないから採用活動自体をストップするのは、非常にもったいないなと感じます。シリアルアントレプレナー(連続起業家)が強いのは、その築いてきた人的なネットワークはもちろん、一度これらの組織づくりを通じて採用の大切さを体験しているからだと思います。

この連載では成長するスタートアップ企業様が事業を立ち上げてスケールしていく中で、どのような採用や組織づくりをしていったのかを探求していきたいと思います。

川口:この連載記事をきっかけに、まずは自分たちも「これだけはやってみよう」と思える形が見つかると良いですね。成功した企業例は華々しいですが、「お金もあるし、良い人もいるから。御社だからできた事例ですよね?」というものも少なくありません。誰もできる採用、組織づくりのポイントを見つけていければと思います。

※第1回目は株式会社アンドパッドCEOの稲田武夫氏と河合氏の対談を予定しています。お楽しみにどうぞ。

(取材・執筆協力/上野智)

著者プロフィール

上野智

Writer

1986年長野県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、編集プロダクションに在籍し『週刊SPA!』や『ダイヤモンドZai』などでコンテンツを製作。 株式会社カカクコムを経て、株式会社ビズリーチ(現ビジョナル・インキュベーション社)のWEBメディアBizHintの企画や編集を担当中。

タイトルとURLをコピーしました