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オーケーでは、AIや画像解析など、新たなテクノロジーを活用した研究開発を行っています。その一つが「ピザ焼き色判定AIシステム」です。ピザといえば、オーケーの大人気商品。訓練を積んだメンバーが、一枚一枚心を込めて焼いています。そこにAIをどう活用しようというのでしょうか。IT本部長の田中覚さん、AIリーダーの安藤綾香さんに聞きました。
それは、生鮮本部 MD室長のアイデアから始まった
――最初に「AIピザ焼きシステム」を思いついたのは、生鮮本部のMD室長だったそうですね。
田中 そうなんです。実は、社内でのAI活用を見据え、月一回のペースでAIの勉強会をしていました。IT本部だけだとどうしてもIT寄りの発想になってしまうので、生鮮本部のMD室長や食品本部のMD室長など、所属や年齢、性別など多様性のあるメンバーに集まってもらいました。
安藤さんは、「私がオーケーのAIリーダーになる」と率先してリーダーシップを発揮してくれました。YouTubeの解説動画をもとに、難しいことを噛み砕いて説明してくれたこともありましたね。ツッコミどころが多くて、逆にみんなの理解が深まったりして。
安藤 それはありますね(笑)
――そもそも、なぜAIを活用しようと思ったんですか?
田中 一番の目的は、人手不足の解消です。人が少なくなると、技術継承が難しくなったり、仕上げのチェックが手薄になりがちで、同じ商品なのに誰が担当するかによって品質にバラつきが生じてしまうんです。そこで、「AIを使ってクオリティを担保する」というアイデアが生まれました。
――AIによって人手不足を解消できる領域はいろいろあると思いますが、なぜ、ピザ焼きにAIだったのですか?
田中 ピザはオーケーを代表する人気商品です。どの店舗でも美味しいピザが焼けるよう、教育にもかなり力を入れています。
ただ、人が焼いている以上、100%同じようには焼けませんよね。先輩やトレーナーがずっと横について指南するわけにもいきません。そこで、AIが先生役となって、美味しいピザの焼き色を判定してくれたら面白いのではないかと、生鮮MD室の室長がアイデアを提供してくれました。
美味しいピザのためなら、どんな手間もいとわない
――初めて「ピザ焼き色判定AIシステム」のアイデアを伝えたとき、実際にピザを焼いている総菜・ベーカリー本部の皆さんの反応はいかがでしたか?
田中 正直なところ、快諾してもらえる自信はありませんでした。AIって未知の世界じゃないですか。それに、AIといっても、ピザの焼き色の画像を使った機械学習なので、焼き色を撮影したり、教師データを用意したり、学習させるための手間がかかります。それを許容してくれるか心配だったんです。
ところが、総菜・ベーカリー本部の笹生守宏部長に話を持っていくと、二つ返事でOKしてくれました。笹生部長をはじめ、総菜・ベーカリー本部のメンバーは、ピザに対する愛情がものすごく深いんですよね。「お客さまに美味しいピザを提供するためなら」と、前のめりで協力してくれました。
先ほど、「100%同じようには焼けない」と言いましたが、ピザ焼きの経験を積んだメンバーは非常に高いレベルで戦っています。
実際にピザの写真を撮って、その焼き色を「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」の3パターンに仕分けしてもらったところ、ピザ焼きの経験を積んだメンバーは、ほぼ全員、同じ判定をするんです。私のような素人には、「焼き過ぎ」も「生焼け」も「OK」に見えるのですが。
安藤 あの一致率はすごいですよね。普段から相当こだわって焼いていることが伝わってきました。ちなみに、私も空振り三振でした。
――現場の皆さんを巻き込まないと、AIによるピザの焼き色判定の精度は上がらないということですね。
田中 そうですね。現場のノウハウは不可欠だと思います。
ピザの検出には「YOLO」、焼き色判定にはGoogle Cloudの「Vertex AI」を活用
――具体的には、どのような仕組みで、ピザの焼き色を判定しているのでしょうか?
安藤 まずは、ピザ釜の上に監視用のカメラを設置します。その下にピザを置くと、物体検出アルゴリズムの「YOLO」が丸い形を検知して、「ピザが来たぞ」と認識します。
――丸いものなら何でもピザだと認識するのですか?
安藤 ピザの写真やピザを模したクッションでも、丸ければピザだと検出すると思います。「それで大丈夫なの?」と思われるかもしれませんが、ピザ窯の下にピザ以外の丸いものが置かれることはないので、「丸いものが置かれたらピザ」ということにしています。
ピザを検出したら自動で撮影され、その画像がGoogle Cloudの「Vertex AI」に送られます。「Vertex AI」が焼き色を見て、「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」を判定します。その間、わずか3秒です。
2000枚のピザの画像を目視で仕分け
――教師データはどうやって用意したのでしょうか?
安藤 実際に焼けたピザを撮影し、笹生部長に目視で仕分けていただきました。食堂の端っこに大型モニターを置いて、ピザの画像を一枚一枚映し、笹生部長が「OK」「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」……と。1000枚のピザの画像を仕分けていただきました。
――1000枚!?
安藤 でも、1000枚では足りなかったんです。実際に焼き色判定をしてみると、その精度は78%と、極めて低かったんです。AI職人の方に相談したら、「画像の枚数が少ないのではないか」と。そこで、ピザの画像をさらに1000枚増やし、2000枚にしたんです。
――2000枚!? こちらも笹生部長が目視で仕分けたんですか?
安藤 はい。「あと1000枚判定をお願いします!」と。笹生部長は、快く「いいよ」と言ってくださいました。それで、お言葉に甘えていました(汗)
田中 そんなこと、安藤さんじゃないと頼めませんよ。
オーケー IT本部 安藤綾香さん。好きなオーケーの商品は「シャトーブリアン」。次点は「ランプ」
安藤 でも、これは後で田中本部長に指摘されて気づいたのですが、精度が低かったのは画像が少ないからではなかったんです。本当の原因は、「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」の配分を意識していなかったことにあったんです。
――どういうことでしょうか?
安藤 今回用意したピザの画像は、商品として提供する焼きたてのピザを撮影したものです。職人技で焼いたピザですから、焼き色は「OK」が圧倒的多数で、「焼き過ぎ」「生焼け」は、ごく少数。つまり、「焼き過ぎ」「生焼け」の教師データが少なすぎたんです。
田中 そうそう。いくら試験勉強を頑張っても、勉強しなかったところが出たら点数が取れないのと似たようなものです。
安藤 それに気がつかず、「あと1000枚くらい撮れば、焼き過ぎ、生焼けの画像も増えるだろう」と進めてしまったのがいけませんでした。本当は、「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」を同じ分だけ用意すれば、精度を高められたんだと思います。
田中 仮に、「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」の教師データを300枚ずつ用意できれば、精度が上がるかもしれませんね。
安藤 そういうことですよね。急ぎ改善します!
――面白いですね。少し遠回りだったかもしれませんが、実際にやってみたからこそ分かったことですもんね。
田中 大切なことですよね。こうして試行錯誤することが安藤さんの成長につながるし、面白いからいいやと思って見ています。
安藤 見守っていただいています(笑)
3年で、オーケーのIT本部はどう変わった?
――ところで、田中さんがIT本部長としてオーケーに入社して、もうすぐ3年です。どんな変化がありましたか?
田中 総菜・ベーカリー本部はもちろん、他部門との距離が近くなりましたね。実は、IT本部の若手を中心に、修行のような形で現場に出ていくことが増えたんです。安藤さんも1年ほど生鮮部門に席を置き、生鮮部門の皆さんの業務改善に取り組んでいました。
オーケー 執行役IT本部長 田中覚さん。好きなオーケーの商品は、期間限定のアイス「マロングラッセ」
今回の「ピザ焼き色判定AIシステム」も、部門を超えたコラボレーションの一つです。それぞれの持ち場で矜持を持って働くメンバーが手を組むことで、オーケーはもっと進化できると確信しています。