ナリコマのさらなる成長のカギ「ブランディング」に込めた想いとは?〈後編〉|デジタルマーケティングチーム対談
食事を通して人々に生きる喜びを届けるべく、高齢者福祉施設や医療機関向けに食事サービスを提供する、株式会社ナリコマホールディングス(以下、ナリコマ)。大阪府大阪市に本社を構え、関西を中心に成長を続け、全国にサービスを拡大してきました。
今回は前編に引き続き、ナリコマ コーポレート本部 デジタルマーケティング室(以下、デジマ)より、本部長の北窓 佐和子と、ライター・クリエイティブディレクターの松村 翠に対談形式でインタビュー。ブランディング施策による効果や、今後ブランディングを通してめざす世界について、詳しく語ってもらいました。
※前編はこちら
なお記事の執筆には、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。
参加者紹介
北窓 佐和子さん(コーポレート本部 本部長・2020年入社)
マーケティング、広報、ダイバーシティ推進、採用・教育・人事制度を担当
松村 翠さん(ライター兼クリエイティブディレクター・2023年入社)
コンテンツライターとして入社後、コンテンツ企画・取材・制作まで一貫して担当
コーポレートブランディングの要は「ストーリー」
ー松村さんはデジマで具体的にどのような業務を担当しているのでしょうか。
松村さん: 私は主に、イベントやコンテンツの企画内容を考える仕事をしています。
たとえば万博では、「美味しいと記憶のつながり」というコンセプトを私が設計しました。当社には「ご高齢者の皆様に生きる喜びを」という理念があるんですが、それをそのまま伝えるのではなく、万博というイベントに合った切り口に調整していく、そんな細かな部分を担当しています。
具体的には、「記憶」をテーマにストーリーを打ち出す企画をつくり、そこから「どんなストーリーなら、ナリコマを知らないご来場者様やお子様、外国の方にも伝わるか」を考えました。万博は老若男女、国内外のあらゆる方が訪れる場所なので、誰にとっても共通する体験に落とし込むことを大切にしました。そのように、ストーリーを見える形に落とし込むところまでが私の役割です。
今度のエコプロでも同じような流れでコンセプトを設計しています。ナリコマの理念を別の角度から見直して、「サステナブル」と「ウェルビーイング」というエコプロのコンセプトに沿ったナリコマのPR方法を考えるところから始めました。
でも考えてみれば、実は当社の事業そのものが「食の循環」なんです。献立を立て、誰もが食べられるお食事をつくり、お届けし、お召し上がりいただき、感想やご意見をいただいて、また献立へ生かす。この「おいしいの循環をつくっている会社である」というストーリーが、そのままサステナビリティに通じているんです。
「よし、これをそのままコンセプトとして伝えよう」と決め、そこから必要な制作物を企画して、形にしていきました。
北窓さん: 松村はもともと、入社時は「コンテンツマーケティングをしたい」という思いが強かったんです。デジタルマーケティングの中でも、コンテンツをフックとしてお客様にナリコマを知っていただく。コンテンツはマーケティングにおいて非常に重要な要素ですから、その領域を手掛けたいという本人の志向と、もともと医療系のライターをしていた経験を活かしてもらおうと思いました。
なので、入社当初は主にコンテンツ制作を担当してもらっていました。お客様のニーズや課題に合うコンテンツをたくさん作る、いわば増産のフェーズを担ってくれたんです。
ただ、その後、私たちのデジタルマーケティングの領域がどんどん広がっていきました。プロダクトマーケティングだけでなく、コーポレートブランディングにも取り組むようになり、イベント出展など、活動の幅が一気に広がったんです。
一般的な会社では、イベントはマーケティングチームではなく広報チームが担当することが多いのですが、当社の場合はコーポレートブランディングの一環として、デジマが担うケースが増えてきたんです。その変化によって、松村の担当領域も自然と広がっていきました。
コーポレートブランディングには「ストーリー」が重要なんですが、松村はそのストーリーテリングに長けている。他社との差別化ポイントも、まさにその点です。
他社は「うちのサービスは便利です」と機能訴求は行いますが、「このサービスが生まれた背景には、こんなストーリーがあるんです。そのストーリーに共感してもらえますか?」と訴えかける発信をしている企業はほとんどいません。私たちはその「ストーリー」をとても大切にしています。共感を軸にしたストーリーを発信することが本当に重要なんです。
松村は、そうした共感コンテンツをベースに、イベント、ホームページ、その他の媒体まで、企画からディレクションまで幅広くカバーしています。「そのストーリーは会社の伝えたい方向性に合っているか?」という確認も含め、全体を網羅的に見てくれていますね。
松村さん: コーポレートブランディングのそもそもの根底となるのは、会長の言葉やナリコマがもともと持っている想いです。そこからはブレないように調整しています。
ブランディングによる効果![]()
ー現時点で、ブランディングの効果をどのような点に感じますか。
北窓さん: コーポレートブランディングの効果は、相関関係を数値で証明するのが難しいですが、明らかに採用活動が活況になってきていると感じています。
当社はエンドユーザー向けの商材ではないので、普通に生活していてナリコマの名前が出てくることはほとんどありません。だからこそ、しっかり情報発信して会社の魅力を伝えていくと、採用面のメリットがとても大きいんです。
コーポレートブランディングを通じて、「おもしろそうな会社だな」「介護福祉事業でDXを推進している企業なんてあるんだ」という良い意味での驚きやギャップが生まれ、そこからファンになって応募してくださる方が増えてきている実感があります。実際、以前より当社にマッチした方が応募してくださっていますね。
当社では、これから人口が減る中でもマッチした人材を採用するためには、自社の採用力を高める必要があると考えています。求職者は応募する際に、必ずコーポレートサイトを見ます。そのときにしっかり情報が載っていれば、「ナリコマっていい会社そうだな」と好印象につながり、採用の好循環が起こるんです。
事実、当社ではパートさんを含めて年間800名程度採用しています。これだけの人数を採用できている会社は珍しいと思うので、コーポレートブランディングだけの成果ではないにせよ、確実に相乗効果が出ていると思いますね。
ーコーポレートブランディングによって、採用に好循環ができているんですね。他に効果を感じている点はありますか。
北窓さん:大手企業とのコラボレーションが生まれてきたのも大きいですね。万博への出展がきっかけで某食品メーカーと「一緒に何かできないか」というお話が生まれたり、他の大手企業さんとも「対談しましょう」「ぜひ一緒に何か取り組みたい」というお声をいただいたりするようになりました。
大手企業はブランドイメージを崩すような企業とは組めないので、コラボ相手を慎重に選びます。だからこそ、ナリコマがどんな会社なのかが明確に伝わっていることが、コラボの前提になるんです。その点にもコーポレートブランディングの力を感じています。
私は今、世の中は「共創社会」だと思っています。一社だけでできることは限られている。それは企業規模が大きくても同じです。だからこそ、互いに強みを持ち寄り、新しい価値を一緒に提供していくことが企業の存続戦略として非常に重要なんです。
当社はBtoB企業で、さらに医療福祉という普段の生活では視界に入りにくい領域だからこそ、自分たちの手でしっかり発信し続けなければならない。それがナリコマの未来を作り上げていくと考えています。
ブランディングを通じて目指したい世界![]()
ーブランディングを通してめざしたいのはどんな世界ですか。
北窓さん: ブランディングを通じて、私たちの秀逸なサービスを、一人でも多くのお客様に使っていただきたいですね。
私たちの商品は良い商品であるという自負がありますし、確実にお客様の課題解決につながる便益性がある。でも、いくら質が高くても、きちんと伝えていかなければ、今は選んでもらえない時代。選択肢が多いので、黙っていたらお客様に見つけてもらえません。
だからこそ、まずは私たちのサービスを知っていただくことがとても重要です。そして、サービスそのものだけでなく、それに込めた想いや背景を含め、「ナリコマ」という会社を知っていただくこと。そのうえで、「使ってみたい」「応援したい」と思っていただける存在になりたい。
つまり、一人でも多くのお客様に知っていただき、ファンになっていただく。そんな世界をめざしています。
松村さん: 今後は物価高などの影響により、残念ながら値上げせざるを得ない状況が続くと思っています。ただ、これまでは値上げ前に「ギリギリまで踏ん張る」「精神力でなんとか耐える」という状態が長く続いてしまって。本当に限界を迎えてからようやく値上げに踏み切る、そんなケースが多かったように思います。
でも、ブランドがしっかり確立されていれば、値上げへの精神的な負担はもっと軽くできるのではないかと感じています。
「多少値上げしてもお客様は離れない」「この価値なら適正な価格だとお客様に理解していただける」
そんな相互の信頼関係があれば、価格改定への不安も減るはずです。当社の社員にとって、「確固たるブランドがあるから、安心して値上げを提案できる」と思える基盤をつくることが大事だと考えています。
これまではブランドの後ろ盾がなかった分、営業現場は精神力で何とかしてきた部分が多かったと思います。でも今後は、それをブランドで補っていければ、営業社員も販売しやすくなりますし、採用にも良い影響をもたらすと思います。
私自身、中途入社した時に、「この会社は共通言語が少ない」と感じたんです。というのも、部署ごとに文化が違っていて、工場に行くとまるで別の会社に挨拶に行くような感覚でした。だからこそ、ブランディングが会社全体の共通言語になればいいなと考えています。
今後のブランディング施策の展望![]()
ー最後に、今後どのようなブランディング施策に取り組んでみたいですか。
北窓さん: コーポレートブランディングはまだ始めたばかりなので、これから取り組んでみたいことはたくさんあります。
私は「給食会社のブランディング」ではなく、「ナリコマという企業のブランディング」を行っていきたいと思っています。良い意味で、給食という枠にはまりたくないんです。もちろん給食を提供している会社ではありますが、「ナリコマ=給食会社」という言い方だけで終わるのは違う気がしています。
私にとって給食はツール。あくまで社会を支えるツールの一つであって、そのツールを使って社会にどんなインパクトを与えるのかが重要なんです。今は給食という商材を扱っていますが、究極は別の商材でも良いのではないかと思っているくらいです。
ただ同時に、当社の事業領域は確実に「社会インフラ」だとも感じています。この事業は絶対に止めてはいけない。もし止まってしまえば、多くの人の生活が立ち行かなくなるほどのインパクトがある。だからこそ、給食というツールを通じて、「ナリコマはサステナブルな社会に貢献している」という事実をもっと広く世の中に知っていただきたいと思っています。
究極は「給食会社」という分類に収まらないナリコマ独自のブランディングをつくっていきたい。それをしっかり形にしていくのが、これから私が取り組みたいことですね。
松村さん: 私は社外向けのブランディングだけでなく、社内向けのインナーブランディングにも、今後力を入れていきたいと思っています。
私たちデジマでは、社外に向けて情報を発信していますが、現状その内容が必ずしも社内全体にしっかり共有されているわけではないんです。社内に伝わっていないことが社外だけに発信されると、どうしてもギャップが生まれてしまいます。
でも、社外から見たナリコマが良いイメージであれば、それがそのまま社内の自信につながると思っています。だからこそ、社外に向けて発信するのと同じくらい、社内のインナーブランディングを強化したいと考えています。
多くの企業では、ブランディングをトップダウンで行うことが多いと思いますが、ナリコマはそこが違うと思っていて。従業員一人ひとりの思いが集まってできあがる集合体こそが、ナリコマのインナーブランディングだと思うんです。とはいえ、そういった従業員の声を十分に集めきれていないまま、外向けの発信だけが少し先に走ってしまっているところもあります。
次のステップとしては、従業員の声をもっと広く集めて「ナリコマの思い」を内側からすくい上げ、それをもとに外へ発信する。そして逆に、社外からいただいた声を社内に戻していく。そうやって双方向に循環させながら、よりブランディングを磨いていきたいと思います。
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[執筆・校正・取材]株式会社ストーリーテラーズ 平澤 歩
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