急成長が期待される日本の「デジタル治療」市場。そのやりがいと社会的意義とは
アプリが「薬」のように病院で処方される時代が訪れています。そのような「デジタル治療」はDigital Therapeutics(デジタルセラピューティクス)と呼ばれ、先進国であるアメリカでは既に複数のアプリが国から承認済み。日本でも「禁煙アプリ」が厚労省に承認され、効果的な治療をしてくれると期待が高まっています。
私たちSave Medicalは、糖尿病治療のための「デジタル治療」の開発を行うスタートアップ。現在は国の認可を得るため、開発を続けています。
今回は代表の淺野とCTOの川上に、起業に至った経緯から現在の開発状況、そして目指しているビジョンについて聞きました。
課題が山積する日本の医療業界。デジタルの力で解決に貢献したい
―まずは起業までの経緯を聞かせてください。
淺野:私は新卒でリクルートに入社し、営業に従事していましたが、途中からCVCで投資業務を行っていました。サンフランシスコで拠点を立ち上げ、毎日2~3人の起業家に会いながら、投資先を探す仕事です。私が担当していたのがヘルスケア領域で、当時ちょうどアメリカでDigital Therapeuticsが盛り上がり始めていた時期でした。
投資をしながら「こんなサービスが日本にあればいいな」と思うのと同時に、自分も再び事業を作る側に戻りたいと思い転職を考えるように。医療機器領域のインキュベーションをしている会社に移り、事業として立ち上げカーブアウトしたのがSave Medicalです。
―ヘルスケアに関わる中で、ヘルスケア領域への強い思い入れが生まれたのですね。
淺野:ヘルスケア領域で投資をしたのも大きな要因ですが「日本を元気にしたい」という想いもずっとありました。今後、日本の人口が減っていくのは仕方ないとしても、医療や教育といったインフラはしっかり整えて次世代に繋げたい。そういう想いが30代半ばで芽生えたのが起業の背景にあります。
実際に医療業界に関わってみると、根が深い課題が山積しており、それは医療業界の中の人たちだけで解決にするにはあまりに大きすぎるものばかり。業界の外にいる私たちでも、ソフトウェアやデータを活用して貢献できることがあるのではないか、という想いでチャレンジを開始したのです。
―CTOの川上さんにも話を聞きたいです。ジョインするまでの経歴や経緯を聞かせてください。
川上:私は新卒でドリコムに入社し、ユーザー向けサービスのエンジニアとしてキャリアをスタートしました。当時はWeb2.0が流行っていた時代で、デジタルサービスが既存事業を次々にディスラプトしていた時代。業界を変える大きなチャレンジができることに惹かれてIT業界に足を踏み入れました。
ドリコムでは開発だけでなく、組織作りや基盤づくり、プラットフォームの立ち上げなど様々な経験をさせてもらいました。しかし、それらはすべて「エンタメ」業界でのこと。もともと持っていた「業界をディスラプトしたい」という想いから離れていたため、転職を考えるようになりました。
その時に、前職であるヘルスケアの会社に声をかけてもらい、「健康」という大きなテーマはまだまだデジタルで変革できることがあると考え転職。身内をがんで亡くしたため、自分の力で少しでも医療に貢献できればと思ったのです。
―Save Medicalに転職した理由はなんだったのですか?
川上:薬としても効果のあるサービスを作ることができ、ビジネスとしての可能性も感じたからです。前職はヘルスケアサービスの会社だったのですが、直接健康に寄与できるわけではありません。その影響もあってサービスとビジネスのリンクを実感できませんでした。一方でSave Medicalの話を聞いた時に「ソフトウェア(デジタル治療)が国に認可してもらって、病院で処方してもらうことができるのか」と驚きました。
それなら直接患者さんの健康に寄与できますし、ビジネスとしての成長性もあります。その2つに惹かれて転職を決意しました。
日本とアメリカにおける「デジタル治療」市場の違い
―日本の医療業界のIT化は、アメリカに比べて10年遅れていると言われていますが、その背景を教えて下さい。
淺野:アメリカの医療制度は良くも悪くも資本主義に則った制度で、お金があれば最先端の医療を受けられますが、お金がなければそもそも治療も受けられません。そのため課題も多く、イノベーションが必要な場面が多いため自然とIT化が進んできたのです。
一方で日本の医療制度は、国民皆保険制度のおかげで、誰でも少ない自己負担で医療を受けられる理想的な制度です。医療レベルの平均値が高い上に、お金があれば最先端の医療も受けられる。世界的にも充実した医療制度だと思います。
しかし、その医療環境を維持するには多くのお金が投じられており、イノベーションがなくても医療従事者の方々の頑張りで通用してきました。それが日本の医療がアメリカに比べてIT化が遅れている背景です。
―Digital Therapeuticsにおける日本とアメリカの現状はいかがでしょうか?
淺野:日本では現在、禁煙アプリだけが唯一国の認可をもらっています。対してアメリカでは、生活習慣病にメンタルヘルス、薬物依存など幅広いアプリが処方されています。日本の市場がアメリカに10年遅れているというのも納得ですね。
しかし、アメリカでこれだけムーブメントになっていると、日本でも「デジタル治療」について学会でのシンポジウム開催がされるなど関心が高まっています。これから日本でも「デジタル治療」が一般的に普及するのは時間の問題だと思います。
様々な疾病に対応したプロダクトを開発していくために「テックリード」の採用が課題に
―Save Medicalの現在のフェーズについて聞かせてください。
淺野:今は私たちの最初のプロダクトである、「糖尿病」のためのアプリを開発しているところ。ちょうど治験が終わり、その結果を解析しているところです。治験の結果について議論をして、国から認可をもらえるよう準備を整える必要があります。
―国の認可をもらえるとどうなるのでしょうか?
淺野:多くの診療所で私たちのアプリが処方して頂けることを期待しています。今も糖尿病治療のためのアプリは数多くありますが、医師たちはどのアプリを提案すれば良いのか判断しきれないでいます。まさか自分で全てのアプリをダウンロードして確かめてみるわけにもいかないので、アプリがあるのを知っていても患者さんに自信をもって提案できないそうです。
その中で国が認めるアプリが出れば、自信を持って患者さんに提案できるのではないでしょうか。それによって患者さんの薬の飲み忘れを減らしたり、これまで患者さんとの会話だけで行っていた生活習慣の指導も、データを活用して行えるようになります。
「最近調子はどうですか」と聞くような診察の形は、実は江戸時代から変わっていません。そこにデジタルを組み合わせることで、診察の形をアップデートできればと思っています。
―そのために、今抱えている課題についても教えて下さい。
川上:開発体制です。現在は主に開発をアウトソースしていますが、それでは長期的なサービス運用には対応できません。サービスをリリースした後は定期的なメンテナンスが必要ですし、セキュリティを担保するためにアップデートも必要です。
アウトソースのプロジェクトチームは開発スコープ・期間があるため、どうしてもサービスを作って終わってしまいます。そのため、サービスをリリースした後の運用を見据え、設計・開発・運用に携わる社員のエンジニアが必要だと思っています。
―では、エンジニアの採用が喫緊の課題なのですね。
川上:エンジニアの中でも、サービスとチーム作りも行えるテックリードが必要です。現在は糖尿病のプロダクトに集中していますが、今後は様々な疾病領域にチャレンジしていきます。それぞれのサービスを先頭に立って引っ張っていけるテックリードを今のうちから採用していきたいですね。
―今後はどのような開発組織を目指しているのでしょうか?
川上:柔軟に開発強度を調整できる組織です。「デジタル治療」の開発は、主に「治験」のためにスピードや作り込みが必要な開発フェーズと、認可後に多くの人に処方され安定性やセキュリティが重要になる「処方」の運用フェーズと2つの盛り上がりがあります。そこが一般的なアプリ開発とは違うため、リソースのかけ具合、開発する内容も状況を見ながら都度調整しなければいけません。そのために柔軟にリソースを調整できる組織にしていきたいですね。
自分の身の回りの人の健康に貢献できるやりがい。歴史に残る仕事ができる面白さ
―募集に際して、どのような志向の人を求めていますか?
淺野:ヘルスケア領域への関心、特に「最先端の医療技術」などに興味を持っていることです。「最新のテクノロジー」に興味を持っているエンジニアは多いですが、それは「最先端の医療技術」とは異なります。テクノロジーに興味を持っていていることはもちろん歓迎ですし、加えて医療技術への興味も持っていて頂けると嬉しいです。
また、実際にサービスを使う患者さんの気持ちにも思いを馳せられることも重要です。私達が挑戦している領域は、まだ前例もなく何が答えなのかも分かりません。そのような状況の中でも、病気で困っている患者さんが何に困っているか想像し、常にベターを追い求められる人が活躍できると思います。
川上:私たちは長い期間、同じ問題に携わることになるので、次々に最先端技術を求める人よりも、気長に一つの課題に向き合いたい人のほうが向いていると思います。
また、私たちは今が黎明期。決められたルールを守りたい人より、自分でルールを作っていきたい人は楽しめるのではないでしょうか。大企業で開発ガイドラインに縛られて窮屈に感じている人は、うちでガイドラインを作る側になってもらえればと思います。
―エンジニアとして働く面白さも教えてください。
川上:面白さは2つあると思っていまして、一つはUXについて。私たちのプロダクトはユーザーの体感がそのまま効能として表れます。「どういう見せ方をするか」「どういう体験をしてもらうか」がそのままプロダクトの価値になるのは、フロントエンドの醍醐味ではないでしょうか。
もう一つはバックエンドの醍醐味である「データ活用」について。私たちのプロダクトは特定の個人情報に加えて、より高度な医療情報を取り扱います。それらのデータをどのように取り扱うのか、またそれらのデータを活用していかに次の価値に繋げるのか。これから他の疾病領域に取り掛かる際に、データの取り扱いが成否を左右すると言っても過言ではありません。
フロントエンドとバックエンド、いずれもそれぞれやりがいのある仕事に挑戦してもらえます。
―川上さん自身、異業界から医療業界に移って何が一番やりがいに感じたかも聞かせください。
川上:自分自身、もしくは家族や近しい人達の命や健康に関わるサービスを作れることです。自分も糖尿病になるかもしれませんし、家族や周りの人たちもそう。もしも身近な人が病気になった時に、医学や薬学のバックボーンがない私たちソフトウェアエンジニア自身が、信頼できるサービスを提供出来る可能性があるのは非常にやりがいに感じますね。
―最後にSave Medicalに興味を持った方へのメッセージをお願いします。
淺野:私がヘルスケア領域に深く関わったのはアメリカですが、それでも日本で起業しようと思ったのは、自分や家族に最先端医療を受けてほしいと思ったから。特に日本は「医療×IT」の分野で遅れがちですので、誰かがやらなければなりません。そしてその人数は多いほうがよいと考えています。
もしも同じように、自分や周りの人に最先端医療を届けたい人、日本の「医療×IT」分野を推進したい人は一緒にチャレンジしましょう。
川上:私たちの仕事の醍醐味は「レガシー」を作れること。決してネガティブな意味ではなく、将来的に使われるデファクトスタンダードを作れるという意味です。
今まさに私たちの市場は変革し、新しいものを取り入れようとしているところ。その局面に携わり、自分たちが変革の中心に立てるチャンスはそうありません。
よく建設業界では、そのやりがいを「地図に残る仕事」と表現しますが、私たちも同じようなことがIT業界でできるのです。歴史に残るような仕事をしたい方はぜひ一度話してみましょう。