【アニメ制作会社の中の人#02】若手制作進行インタビュー/まずはアニメを作る最前線に立ったほうがいいと思ったんです。
高橋将大(たかはし まさひろ)。創価大学文学部卒、一橋大学大学院社会学研究科中退。昨年は『歌舞伎町シャーロック』の制作進行を担当、現在は『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編 Paladin; Agateram』の制作進行を担当している。
「人と話すのが好き」だという高橋さんは、社内外のアニメスタジオの制作進行仲間ともたくさんのつながりを持ち、人とのコミュニケーションを楽しみながら制作業務を行っている。入社2年目、アニメスタジオの制作進行というど真ん中の業務を請け負う高橋さんに、職場のリアルを聞いた。
高橋さん、今日はよろしくお願いします!早速ですが、高橋さんはいまどのようなお仕事をされていますか?
『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編 Paladin; Agateram』の制作進行をしています。いまはアニメーターさんにお声がけを始めている状況です。
また、動画作業を色んな会社さんに頼む役割になったので、動検(注:動画検査)さんにおすすめの会社さんをヒアリングしながら、先手を打って様々な会社さんに目星を付けてるような感じです。
この前まで制作進行を担当していた『歌舞伎町シャーロック』との間の時期ではあるので、比較的余裕があるタイミングでもありますね。
そうなのですね。高橋さんは若手枠という形で今回インタビューをお願いさせていただきましたが、学生時代はどんな生活を行っていましたか?
学業では歴史学と政治学を学んでいて、サークル活動では天文研究会とギター部に入っていました。
天文研究会って珍しいですね!
天文研究会はかなり力を入れて活動をしまして、科学館と一緒に展示会というので研究発表したり、ドーム型のプラネタリウムを作って、大学祭などで観望会を開いて一般の人に木星を見せたりしました。サークル長ではなかったんですけど、2年生のとき大学祭に向けての責任者を担いました。
学業でも、教員免許と学芸員の資格を取って、そこで習った展示のしかたを生かしながら、展示の目線の高さや文字量、動線などに気を配りながら展示会を作りました。今、話しながら思い出してきましたが、合計200単位ぐらいとりました。あと、ニュージーランドに1年間留学していました。忘れてました。笑
笑 就活はどのように進めていきましたか?
まずはエンタメ業界をメインで調べ始めて、読書が好きだから出版かなと思いつつ、就活をやっていくうちに、玩具、ゲームと具体的に絞っていったのですが……究極、アニメを作りたいなと思って。じゃあアニメスタジオだとなって、そこからアニメスタジオ中心に就活をしていきました。
その過程では、具体的にどのような考え方で選択していったのですか?
出版業界だと、ESに大体「どんな作品作りたいか」という項目があるのですが、その問いを考えていく中で、影響を受けた作品の多くは、アニメが入り口になっていたことに気づいたんです。『プラネテス』や『銀河英雄伝説』といった作品は、アニメから小説や漫画に入っていきましたし、本がきっかけというよりも、アニメからポロロッカ的に自分の興味が向かっているなと気づきました。自分の宇宙好きも、『宇宙兄弟』や『ふたつのスピカ』といったアニメがきっかけでしたし。アニメのほうが波及力あるなと思ったんです。
なるほど、自分の興味の入り口の多くがアニメだということに気づかれたのですね。そうしてアニメと決めた後は、就活はアニメ一本という感じだったのですか?
出版社や玩具といった、アニメ以外の企業にもエントリーしました。それと、インターンシップではいろんなところに行きました。アニメは就活のタイミングが遅かったので、それまで社会勉強だと思って、自分が将来絶対に行かない業界に行ってみたいと思って、美容業界のインターンシップとかに参加しました。笑
就活の波を楽しんでらっしゃったのですね。笑 それでは、アニメ業界の中でI.Gを選んだ理由はなんでしょうか。
自分の好きなSFや政治っぽい作品を作ってるのがI.Gだったのかなと思い、第一志望にしました。『PSYCHO-PASS サイコパス』の1クール目とかも、院のゼミで読むような社会学者や哲学者の本や発言の引用を絡めながらストーリーが展開されていて、楽しそう!と思いました。
「制作会社」という選択肢を選んだことに理由はあるのでしょうか?
I.Gを選んだ理由とも重なって、製作委員会に食い込んで企画ができるというのもあるのですが、やっぱりアニメを作りたかったというのが一番大きいです。
なるほど。いま制作進行という仕事をされていますが、「アニメを作りたい」という思いはそこにも表れているのでしょうか。
そうですね、まずはアニメを作る最前線に立ったほうがいいと思ったんです。就活前、『SHIROBAKO』は見ていて、ああいう感じかなという想像はしていたのですが、肌でアニメの作り方を知っておきたいと思いました。あと、学部の後輩が制作進行をやっていて面白そうだなと思っていたこともあります。話を聞いていて、キツそうだとは思ったけど、同時に僕なら行けそうだなとも思いました。
「僕ならいけそう」とのことですが、どうしてそう思ったのでしょうか?
人と喋るのも好きだし、人と交わるのも好きなんで、意外と楽しくできそうだなと思ったんです。実際始めてみたら、やっぱりキツかったですけどね。笑 でもみんなでわーっと仕事をして、文化祭みたいな気分です。
そういった部分も含めて楽しめる適性があったのですね。それでは、ここからは実際にI.Gに入社してからの話を聞かせてください。制作進行という仕事のなかで、やりがいを感じる瞬間はどんなときでしょうか。
色々あるのですが、アニメーターさんのあがりを誰よりも先に見れるというのは嬉しいです。放送にはそのまま出ない、生の原画を初めてみたときはゾクっとしました。
もっというと、アニメーターさんと関われること自体が楽しいのかもしれません。そして、自分がお願いしたいアニメーターさんに依頼して、いいフィルムができあがるというか、いいアニメができあがっていくことが面白いです。まだまだ、これからなんですけど……。
誰に頼むかで、あがりは変わってくるものですか?
変わってきます!アクションが得意な方だったらアクションをお願いしますし、日常芝居が得意な方には、そういったカットをお願いしたりします。得意なシーンを得意な人に振れると、ピタっとはまってくる。そこが制作の能力の発揮するところだと思います。
実際『歌舞伎町シャーロック』をやっていたとき、爆発のシーンがありまして。派手に爆発させたいと考え、爆発が得意なアニメーターさんにそのシーンを任せたら、良いカットがあがってきたんです!あがりを追っかけたりするのは大変ですが、ここが好きで仕事をやってる人も多いんじゃないかなと思います。
あとは、I.Gにはトップ級のクリエイターの人がいるので、その人たちと話せるのが嬉しいです。ざっくばらんな普段の趣味の話もしますが、飲みに行ったときに、昔担当してたアニメの話を聞けるのが面白いですね。
たとえば黄瀬さん(黄瀬和哉取締役)とかだったら、女の子描く時自分のフェチが入るんですかと聞いたら、もちろんと言っていました。脚の細さとかこだわりがあるみたいで……。その人にしかないクリエイティブな部分の話を聞けると楽しいですよね。有名人に会った気分というか、昔好きだったアニメを作ってきた人に会ったというミーハーなうれしさもありますが。笑
I.Gに入社して、一番うれしかったことはありますか?
一番うれしかったこと、なんだろう、難しいです。いつもうれしい。笑
そうですね、友達や親が作品をチェックしてくれて、連絡してもらったのもうれしかったですね。あと作品をやり切ったときは嬉しかったです。待機してくれていたクリエイターさんにも終わったよと連絡して、お世話になった人全員に電話しました。そのあと、仕事は全部終わり、あとは飲むだけだと、プロデューサーさんたちと飲みに行きました。
とにかく人と話すのが好き、という高橋さん。
それでは最後に、これからのことに関してお聞かせください。今の自分の課題はなんですか?
まだ、アニメの絵の良さがわかりきってないということです。なんとなくいい、というのはわかるのですが、どこがよくて、何が悪いかをまだ噛み砕けていません。制作自身が絵のことをより分かったほうがいいなと思っているので、勉強中です。
あとは、プロデューサーになりたいと思うなら、予算感覚をつかむことです。
これからの目標はなんですか?
面白い作品を作ることに尽力することです。あとは、自分の周りにいる人は面白く生きてほしいというか、自分がいる場は盛り上げたいと思っています。
つまり、「高橋と一緒に働きたいと思う人を増やす」といったようなことでしょうか?
そうですね!いい言葉だ!
笑 終始高橋さんらしいインタビューでした。ありがとうございました!