日本の研究開発現場のアップデートを目指す株式会社Co-LABO MAKER。研究開発実験のシェアリングサービス、LaaS(Lab as a Service)という概念を掲げて創業から6年たち、事業も順調に伸ばし続けています。今回はCOOの杉ノ内萌さんにこれまでの経歴と現在の研究開発現場が持つ課題について聞きました。
杉ノ内萌(すぎのうち もね)
早稲田大学卒業、名古屋大学大学院数学専攻中退。AI教育を普及させる東大発ベンチャー、 株式会社 Aidemy での事業開発を行い急拡大フェーズを経験。東急不動産ホールディングス株式会社の新規事業の立ち上げや、プロジェクト・マネジャーを経験した後、2021年より株式会社 Co-LABO MAKER に参画。業務改善と資金調達をリードし、現在は組織拡大に伴って採用活動に奮闘中。スタートアップの「1→10」を作り上げることが強み。
理工学部で数学研究者を目指し、スタートアップへ
――COO である杉ノ内萌さん、ご自身のご経歴を教えてください。
杉ノ内:大学は早稲田大学理工学部の数学科に入学して、その後に名古屋大学大学院に進学しました。当時の僕は「最短ルートで数学者になる!」と考えていたので、1年生時に4年間分の基礎学習を終わらせ、まったく友達も作らず、飲み会にも行かず、毎日8~10時間ほど図書館に籠もり勉強をしていましたね。
その時は「数学者になるならば、アメリカで!」とも思っていました。日本の研究キャリアは割に合いません。アメリカやヨーロッパ諸国では大学院生が先生の研究アシスタントの職を得て30~40万円の給与を得ている。日本の研究現場とは雲泥の差です。ただ、当時の私は実家の経済的な理由があり、学費を自分で稼がなければならなくなったので……。個人事業主としてシステムの受託開発を請け負い始めました。
受託開発を行いながら「ビジネスの観点」を学んでいるなかで、スタートアップにも目を向け始めました。名古屋大学の数学科で博士号を取っている先輩に株式会社スローガンの共同創業者の織田一彰さんという連続起業家がいます。織田さんを知ったことで「もっとスタートアップに関わりたい」と思うようになりました。
その後、いくつかスタートアップ企業に就職しCo-LABO MAKERにジョインする前は不動産デベロッパー企業の新規事業開発を担当していました。ただ、不動産企業はどうしても街作りが中心になるので「本質的な課題解決には遠いのでは?」と、モヤモヤ感は常に抱えていましたね。
人がやりたがらない困難な課題を解決したい
――Co-LABO MAKERにはどのように出会ったのでしょうか?
杉ノ内:本当にたまたま見つけたと記憶しています。「大学 スタートアップ」や「研究開発 変える」といった単語で検索して出会いました。気になっていた所で以前、一緒に働いていた人がCo-LABO MAKERでも働いていたので連絡を取り、まずはアルバイトでジョインしたのが2021年秋です。ちょうど、Co-LABO MAKERもコロナ禍でラボのシェアリングができなくなり、委託業務を中心にシフトして、クライアントの顧客対応メンバーが増えていくので、効率的に組織を構築しなければいけない状況でしたね。
自分自身、数学の研究にのめり込む性格なので「抽象的な課題解決・人がやりたがらない困難な課題への挑戦」といったことを好んで取り組んできました。「研究室の設備が上手く使えていない」や「産官学が協力し合えていない」といった日本の研究にまつわる課題は20~30年前から指摘されていて、内閣府会議の議事録にも挙がるくらいのレベル感です。ですが、構造が複雑に絡んでいたからこそ、誰も手を付けられない問題となっていました。この厄介な課題にコミットしたいと思い、正式にCo-LABO MAKERにジョインしました。
Co-LABO MAKER事業の難しさとは?
――この産官学の連携を進める上で、難しいと思う点はあるのでしょうか?
杉ノ内:国公立大学と大企業のコラボレーションは、やはりレギュレーションが難しくて動きが取りづらいですね。大学を動かすための観点は3つあります。
一つは安全性。理系大学の研究室には劇物が保管されています。安全管理がしっかりしていなければ、誰かが持っていってテロに使うことも想定されます。このレギュレーションをしっかり守ること。
もう一つは妥当性です。大学は営利企業とは異なり、儲かればいいという組織ではないのです。教育上の観点から数億円の設備投資をしたり、医療で人類を救うからこの装置を買うといった建付けがあります。それを「企業の営利目的の商品開発に使っていいか」という議論はあるものです。Co-LABO MAKERを利用することの妥当性が説明できることは大事です。
最後が法律面です。契約書の建付けで問題がないかどうか。特に営業でいう費用調整などもボトルネックになったりもするので、それぞれに対してアプローチをしています。
Co-LABO MAKERとの契約が進まない場合は……。どの大学でも産学連携部署はあるので、それぞれの観点でアプローチするようにしています。安全性を見る方は現場出身の方が多いです。妥当性や契約面の場合には産学連携課の先生や、学部教授会の倫理委員会などにアプローチしたりします。
――新規で契約をするにあたってポイントやコツなどはあるのでしょうか?
杉ノ内:Co-LABO MAKERの利用は「新しい座組み」ではあるけれど、「全くもって未知ではない」というのはお伝えしています。「共同研究の新しい一つの形ですよ」と。古谷が東北大学に在籍していたときにも、いろいろな企業がやってきて、共同研究を行っていました。「それに近い感覚でもっとやりやすくしていますよ」というスタンスを示すと理解されやすいです。既存の規定を教えてもらい、その規定に則ってまずはやってみるご提案をしていますね。で、2年目以降は課題を洗い出して新しい座組みにする。いきなり、大学側に「Co-LABO MAKERはプラットフォームです」といってもビックリされてしまいますからね。
大学を訪問していて思うのは、デジタル化を行い、民間企業とも共創をしていったほうがいいのはみなさん重々承知しています。ただ、情報の安全性を担保したり、普段の教育・研究業務を止めてはいけないので……後回しになっている。これを変えていくことに面白さとやりがいがありますね。大学の先生方も欧米に視察に行っていて、「もっと企業とコラボレーションをした方がいい」というのは感覚的に分かりきっていますから。ちゃんと筋さえ通れば、成果は出ます。
アイディアの発明と具現をやりきる代表の右腕へ
――代表の古谷さんに対して、杉ノ内さんはどんな印象を持っているのでしょうか?
杉ノ内:古谷さんは研究者としても一流です。加えて、アイディアの発明と具現を両方やりきる力を持っています。そんなバックグラウンドを持ちながらも敢えて、研究者ではなく経営者としてこの課題を解決しようとしています。何か課題があったときも、打ち合わせを経て翌日には「いくつか方策を考えてみたのですが……どう思いますか?」と次の打ち手のたたき台が出てくる(笑)。最初の削り出しが非常に早く、それを一緒に精査しながら解いていくので、非常に働きやすいですね。
Co-LABO MAKERの事業の可能性は、研究の積み重ねの延長線上にあります。今実験や研究のサポートが年間150件あるなかで、それを2年後には50倍にできると思っています。今後、製造業の企業は環境配慮の面で素材も全部リニューアルしなければならない問題を抱えています。しかも、低予算かつ海外企業とも競争力を有した状態で戦わなければいけない。これまで、ラボを5~10年スパンで稼働させて研究開発をしていたのを、Co-LABO MAKERを使って1~2年でクイックに実行し切ることが必要になっています。そこに伴走できるのがCo-LABO MAKERだなと思っています。