社会問題からセックスまで多様なテーマを扱い、女性をエンパワメントする情報を発信してきた「BLAST(ブラスト)」が、フェムテック用品ブランド 「Nagi(ナギ)」をローンチした。プロダクト第1弾として発売されるのは、1枚でも使える吸水ショーツ。
これまでメディアとして、たくさんの女性たちを勇気づけてきた「BLAST」がなぜ、どんな想いでプロダクトブランドを立ち上げたのか。どうしてフェムテック用品を扱おうと思ったのだろうか。プロダクトにはどんな想いが込められているのか。BLAST代表の石井リナに話を聞いた。
女性にとって身近で、ポジティブになっていないことは「生理」だと思った
「Nagi」の構想が始まったのは、今から1年半前。BLAST創立1周年を迎える直前だった。
当初から社会問題からセックスといったテーマをパラレルに扱ってきたメディア「BLAST」は、2016年に代表の石井自身が日本のジェンダーギャップ指数の低さに衝撃を受け、日本の女性たちに日本における男女不平等の実態を知ってほしい」という想いから始まったもの。多くの女性たちの支持を集め、大きな反響を呼んできてはいたものの、石井には次なる目標が見えてきていた。
「メディアを見た多くの人に共感してもらってうれしかった一方で、ライフスタイルにまでコミットしたいと考えるようになり、プロダクト開発に注力したいと考えるようになりました。BLASTは女性のエンパワメントを目的に立ち上げられた会社なので、せっかくつくるなら女性にとって身近なことで、かつポジティブになっていない事柄を扱いたい。そう思ったときに『女性のための商品』をつくろうと思ったのは自然な流れでした」
元々、性とセックスにまつわる番組「Pillow Talk(ピロートーク)」にてセルフプレジャーグッズから生理やピル、子宮頸がんになる前段階の異形成などを取り扱うなど、女性の性の悩みについてのテーマを大きな柱のひとつに据えていたBLAST。その背景には石井自身の経験も色濃く反映されている。
「子宮内膜症ではないものの、生理痛が重く、半年に一回のペースで冷汗をかいて意識が遠のき倒れることもありました。ただ、会社員時代に婦人科を受診することにし、処方されたピルを飲み始めてからは経血量が少なくなり、倒れるようなこともなくなって。それ以降、女性が自分の身体を自分でコントロールすることは女性のエンパワーメントにつながるのではと考えるようになり、自分の身体に関する選択肢を広げたいと思うようになったんです」
また、重い生理痛に加え、子宮頸がんの前段階にあたる「異形成」と診断されたことも、石井が自分の身体に強い関心を持つようになったきっかけのひとつだった。
▲異形成をテーマにした「Pillow Talk」のコンテンツには石井自身も出演している
「動画の中でも話しているのですが、『異形成』と言われたときは頭が真っ白になって『もう死ぬのかも』と本気で思ってしまって。早く子供を産まないと!と思ったほどです…その後、日本では年間で100人に2人が発症(※厚生労働省2016年調査)するくらい珍しくない病気だと知ったのですが、最初から女性の身体や身体にまつわる病気について正しく理解していれば、こんなに悲しい思いをしなくて済んだのにと思いましたし、他の女性たちには自分と同じ気持ちになってほしくないという思いを新たにしました」
「自分の身体についてもっと知ってほしい」
「女性たちの選択肢を広げたい」
今回の吸水ショーツも、そんな石井自身の想いや思想の延長線上にあるプロダクトなのだ。
女性たちが自分の身体に主体性を持てるようなブランドに
今回のプロダクト制作は、資金調達に始まり、プロダクトやパッケージ制作の会社探し、グラフィックデザインの構想に至るまで、モノづくり未経験の石井がすべてゼロから積み上げてきた。
中でも最も力を入れて取り組んだ工程のひとつが、モニター100名を含む、150名以上へのインタビューとヒアリング。決して低くないコストをかけてユーザーの声に耳を傾けてきた背景には、BLAST創立時から変わらない、こんな想いがあった。
「ラグジュアリーブランドのように圧倒的なクオリティやビジュアルでトップダウン式に人を惹き付けるブランドも素敵だと思うのですが、BLASTは女性たちに情報などのきっかけを提供して主体性を持ってもらいたいという想いから立ち上げられた会社です。今回のブランドでも、ユーザーとなる女性たちが『自分に何が合うんだろう』と、自分の身体について主体性に考えることをサポートしたかったので、いろいろな女性たちの声を聞きながら育てていきたいと思っていました」
ユーザーに徹底的に寄り添いながら進めたプロダクト制作。蓋を開けてみれば「また使いたい」と話したモニターが9割弱にまでなるなど、満足度の高い商品ができあがったが、構想段階でのヒアリング時は決して前途洋々ではなかった。
「最初に30名の方に生理の悩みについてアンケートをとったのですが、生理の重さや蒸れ、かゆみ、生理用品のかたちなど、皆さんのお悩みや要望がバラバラで、全員の課題を一度に解決するのは難しいと思いました」
ブランドの立ち上げを断念することも検討していたという石井だが、憂鬱な期間をサポートするアイテムを試していた友人の声や、自身が海外から取り寄せて試していた吸水ショーツの「THINX」で生理期間を楽に過ごせた経験などの「肌感」を信じ、最も広くユーザーの要望をカバーできるモノとして吸水ショーツを選択。プロダクト化に踏み切った。
▲肌に直接触れる内側の部分はすべて黒に。一般的なショーツは外側に採用した色味のゴムをそのまま折り返すことが多いが、経血が付くことを考慮して黒地にこだわった。
自身が様々なアイテムを使用した感想を踏まえ、特殊な縫製の仕方で漏れにくくし、紙ナプキン3枚分の吸水力を実現したほか(※スタンダードタイプ)、消臭機能、制菌効果のある機能素材を選ぶなど細部に渡ってこだわりぬいている。
石井は「機能性の高さでは他の類似商品に負けないものができた」と胸を張る。特にフルタイプは吸水面が広いため、量が少ない日なら夜も安心して眠れると太鼓判を押した。色のバリエーションも全型黒のほか、憂鬱になりがちな期間中の気分を明るくしてくれるようなカラーが各型1色ずつ用意されている。
実際に、サンプルを試したモニターたちからは「今まで一番ストレスフリーな体験できました」「紙ナプキンに戻れなくなりました」「発売されたらもう一枚買います」「想像以上に吸収してくれた」といった機能性の高さへの評価はもちろん、「ナプキンを持ち歩くことに意外と負荷がかかっていたのだと気づいた」という今まで可視化されてこなかったストレスの軽減を感じた人も多かったという。
身体の問題は個々に異なるため、すべての人の課題を一度に解決することは難しい。それでも、多くの人の声から掬いあげた要望と、自分の直感を照らし合わせた結果、女性の要望を広くカバーするプロダクトが完成したといっていいだろう。
メディアの思想をそのまま受け継いだプロダクト
吸水ショーツ本体へのこだわりはもちろんのこと、環境に配慮したパッケージや、リアルサイズのモデルの女性を起用したグラフィックなど、細部にまで思想が反映されているのも「Nagi」の特徴のひとつだ
「プロダクト自体が洗って再利用できるサステナブルなものですし、ゴミの数を減らせるという思想や嗜好性の観点から興味を持ってくださる方もいると思ったので、包装にプラスティックを使用せず、箱も生活の中で再利用できるようなデザインにしました。モデルも、自然体なひとたちのほうが素敵だなと思い、リアルサイズモデルの方にもにお願いしたのですが、#KuToo発起人の石川優実さんにも『痩せ型の人だけでなかったから、自分の身体も好きになれそう』と言ってもらえてうれしかったです」
海外のフェムテックを中心に市場調査をする中で、石井は「いろいろなジャンルでたくさんのサービスがあって羨ましかったですし、性に関するサービスの観点においても日本のジェンダーギャップの大きさを感じました」と話し、「『Nagi』を通じて女性の身体にまつわる問題や情報に目を向け、考えてもらうきっかけになれば」と語る。
最後に「どんな人に手に取ってほしいですか」という質問をすると、石井はこう答えてくれた。
「すべての女性たちに届けたいですね。私の友人には保育士さんや看護師さんといったハードワークをする方や、ランニングやヨガなどスポーツをする方ピタッとした服を着る方、子育て中の方がいるので、いろいろな方のケースを想定しながら開発したつもりです。身体のことなのでもちろん生理用品に好みもあると思いますが、少しでも多くの方に手に取ってもらえるとうれしいです」
「Nagi」の販売は2020年5月28日から、Nagi公式オンラインストアにて発売される。自分の好きな色やかたちを選ぶところから、自分の身体や生活に向き合い始めてみてほしい。
文・編集:佐々木 ののか 写真:三澤 亮介