1
/
5

耳を傾けながらブランドをつくっていく。HARKEN木本梨絵さん

BCG Digital Ventures(以下、BCGDV)でPartner & Director, Experience Designを務める花城泰夢がゲストを迎え、デザインに関するトークセッションを行うシリーズ企画「DESIGN MEETUP」。

今回のゲストは、株式会社HARKENの代表を務める、クリエイティブディレクターの木本梨絵さん。新卒で入社したスマイルズから独立し、2020年7月にHARKENを設立した木本さんに、クリエイティブディレクターとしてのキャリアの道のりや、仕事のプロセス、インプット・アウトプットのために心がけていることなどをうかがった。

■プロフィール

木本 梨絵(きもと・りえ)

Creative Director、武蔵野美術大学 非常勤講師。1992年和歌山県生まれ。2015年、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科を卒業後、「Soup Stock Tokyo」などを運営する(株)スマイルズに新卒入社。店舗での一年半の接客経験を経て、同社の最年少クリエイティブディレクターに就任。本屋、オンラインサービス、イベント、レストラン、コスメなど、さまざまな領域において、ブランドの立ち上げから長期のブランディングまでを担当。2020年に独立し、(株)HARKENを設立。コンセプトやネーミング、コピーライティング、企画、アートディレクション、ロゴデザイン、グラフィックデザインなどを手がけている。

花城 泰夢(はなしろ・たいむ)

BCG Digital Ventures, Partner & Director, Experience Design。2016年4月、BCG Digital Ventures Tokyo の立ち上げから参画。東京拠点のExperience Designチームを牽引し、ヘルスケア、保険、消費財、金融などの領域で新規事業立ち上げやカスタマージャーニープロジェクトを実施。日本のみならず、韓国でも金融や小売業界にて新規事業立案やカスタマージャーニープロジェクトを行ってきた。UI/UXを専門領域としている。

独立から1年。木本梨絵が手がける「ブランドをつくる」仕事とは?

花城:木本さんは現在、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

木本:現在、ホテルやコスメ、飲食、ジュエリー、商業施設、イベント、未分野の新規事業など、様々な分野で「ブランドをつくる」仕事をしています。最近は「NOT A HOTEL」という、ホテルのB2Cビジネスの立ち上げに関わり、ホテルや部屋での過ごし方やコンセプトを考え、ネーミングやコピーライティング、フォトグラファーや建築家のアサインといったアートディレクションを行なっています。

また、「湖畔の時間」というイベントでは、全体のアートディレクションを担当し、デザインコンセプトを立ててロゴデザインやグラフィックデザインを手がけました。


花城:幅広く仕事をされているのですね。普段はどういうプロセスでクリエイティブを生み出しているのでしょうか?

木本:基本的に、5つのステップを踏んでいます。

  1. リサーチし、理解する
  2. ヒアリング
  3. キーワードの洗い出し
  4. コンセプト文を書く
  5. デザインを提案する

特にヒアリングは一番大事にしていて、たとえば先程の「湖畔の時間」でも、はじめにどういう場所なのか、ひたすら調べてまとめ、関わっているメンバーに「ぶっちゃけどう感じているの?」と本音を聞き出し、それを文章にまとめていきました。


花城:1人あたり、どのくらいヒアリングをするのですか?

木本:15分で終わる人もいれば、1時間話す人もいて、最長だと3日間話した人もいました。そのくらいまちまちですね。ヒアリングというのは、聞くだけで終わらせては全く意味がないんです。大切なのは、単に物事を知ることではなく、どのように見るか。


そこで、ヒアリングが終わったら言葉を整理し、近い意図の発言を大項目にまとめ、「つまりこういうことだよね」と、翻訳をしていくんです。

そして、改めてインナー向けにひとつの文章にまとめることによって、ブランドの一貫したひとつの物語となり、関わる人全員が共通の認識を持ちやすくなる。ここまでの作業が本当に重要で、ほとんどの労力を割いています。

花城:ヒアリングにフォーカスしすぎてしまうと、コンセプトの新しさや尖った部分が失われることもあると思うのですが第三者的な目線で意識していることはありますか?

木本:ヒアリングでは素敵な言葉がたくさん集まりますが、それを全て活かすのではなく、セレクトすることこそ、デザイナーやクリエイターの腕の見せどころなのではないかと思います。なので、本質からズレていると思ったものは、潔く捨てるようにしていますね。

花城:なるほど、クリエイターの腕の見せどころという表現がいいですね。ちなみにそのあとのデザインは、どのようにつくっているのですか?

木本:ここまで来れば、あとはビジュアライズに移るだけです。「湖畔の時間」では、ロゴやグラフィックをつくるお仕事だったので、インナー向けの文章を元に、大喜利のようにグラフィックを提案していきました。


花城:はじめの提案から、すでにクオリティが高いように感じます。途中段階をクライアントに見せながら進めているのでしょうか?

木本:いいえ、私は「プレゼンはプレゼント」だと思っているので、途中段階を見せることはせず、一気にデザイン案を見せるようにしています。この「湖畔の時間」では、たくさんの案を出しましたが、数がたくさんあればいいと思っているわけではないので、これだ!と思うデザイン案があればそれだけでプレゼンテーションすることもあります。そして、クライアントがある程度方向性を固め、ブラッシュアップする段階では、途中経過を見せながら一緒に詰めていきます。

花城:なるほど、プレゼンと巻き込み型に緩急があって非常に面白いプロセスですね。

現場を見て、挑戦し続ける。クリエイティブディレクターになるまでの道のり

花城:木本さんの以前のnoteを拝読したのですが、ファミレス店員からクリエイティブディレクターへとキャリアを大きく変えていったことが、僕はすごいと思っていて。実際に、どのようにキャリアを築いていったのでしょうか?

木本:スマイルズに新卒で入社したものの、最初の1年半はずっと、スープストックやファミレスで接客の仕事をしていました。ただ、私はどうしてもクリエイティブの部署に移動したかったので、日中ファミレスで働いた後、そのまま24時間営業のファミレスへ行き、企画書を寝ないで書いて、シャワーを浴びてまたファミレスに出勤するような、非常にストイックな日々を送っていましたね。

そしてその熱意が届いたのか、念願叶ってクリエイティブの部署に移動でき、グラフィックデザイナーとして働きはじめました。とはいえ、私は美術大学の空間デザイン学科卒業なので、グラフィックのことはなにもわからず、やり方を検索して必死に調べながら、ロゴやグラフィック制作のスキルを身につけていきました。その生活が2、3年続いた後、ようやくクリエイティブディレクターになれたという感じです。

花城:特に最初の1年半がすごいですね。当時はどのように企画書を出していたのでしょうか?

木本:たとえば、スープストックで使っている桃の生産地が、私の地元の和歌山だということを知った時は、「もっと生産者の方々のことを社員やパートナー(アルバイト)さんが知れたらいいんじゃないか」と思い、勝手に自腹で和歌山まで行って生産者に会い、取材をしてそれを記事にして社内に配信していましたね。また、パートナー専用のポイントカードの社内コンペがあった時も、企画して映像までつくって出して、採用につなげたこともあります。

現場では、働く人の声や、お客さまの表情から気づくことがたくさんあるんです。それはオフィスで働いていてはわからないこと。自分が現場にいるからこそ感じられる肌感を大切にしながら提案をしていきました。


花城:確かに、僕たちもどんなプロジェクトでも一次情報をとりにいって、現場をしっかりとオブザーブ(観察)することが重要だと考えているので、木本さんの現場の声に耳を傾けた上で提案するアプローチに、非常に共感を覚えます。よく課題にあがるのが、分業されすぎていて、顧客の顔がだんだんみえなくなっていてしまうことがあるのですが、木本さんは、サービスを提供する側・される側の思いを繋げるブリッジ的な役割もしていそうですね。

木本:そうですね。独立してからも、このスタイルは大切にし続けています。会社名のHARKENも、ドイツ語で「耳を傾ける」という意味で、自分のやりたいクリエイティビティを実現するのではなく人の言葉や思いを整理する存在でありたいというスタンスを表しています。ブランドの価値というものは、クライアントさんの頭の中やブランドの中にすでにあって、それが何らかの理由で「詰まって」世の中に届いていないだけ。その詰まりを取り除いて、きれいにして伝えることが、私にとってのクリエイターの仕事だと思っています。

事業を立ち上げ、感性を磨く。自分の土台をつくるもの

花城:木本さんのこれまでの仕事を拝見していると、全体的にトンマナや雰囲気が一貫していて、木本さんらしいブランディングが伝わってきます。より自分らしさを磨くために、現在はどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

木本:仕事の面では、現在3つのプロジェクトを自分の事業として動かしています。これはスマイルズ時代の影響なのですが、たとえばスマイルズはコンサルティングも行いますが、それが成功している理由は、Soup Stock Tokyoという自分の事業を成り立たせた上でコンサルティングを行い、説得力を持たせているから。自分の事業で実績をつくり、より良い循環にしていくためにも、プロジェクトのマネタイズ化を目指して育てています。

最近取り組んでいるのは、「日本草木研究所」。調香師の友人と立ち上げたブランドなのですが、日本国内のさまざまな里山に入り、街中には出回っていないような植生を探して、それをプロダクトにしていく試みをしています。現在は木を食べるというプロジェクトをやっていて、軽井沢の木を蒸留し、そこからドリンクやシロップをつくっていくという実験をしています。

花城:とてもユニークな試みですね。忙しそうな木本さんですが、日常では仕事の前後にどのようなルーティンをされていますか?

木本:私の場合、その時々でルーティンのブームがあるといった感じなのですが……基本的には自分のGoogleスケジュールの9時から10時を自分のための時間にしていますね。その時間は運動をしたり、仕事以外の調べ物や情報収集、本を読むなどといった、インプットの活動に時間を費やすようにしています。


花城:いいですね。僕の最近のルーティンは、観葉植物に水をあげてまわることです。

木本:私も鑑賞植物はたくさん育てています。緑視率といって、オフィス内で視界に植物の緑が入る割合が10~15%程度だと、生産性やクリエイティビティが上がるそうですよ。私も自分のデスクの周りに置いて、視界にグリーンが入るようにしています(笑)。

花城:すごい。みなさんグリーンを育てましょう(笑)。ちなみに、デスク周りにグリーンを置いているとのことですが、普段どのような環境で仕事をしているのでしょうか?

木本:基本的には自宅のリビングが仕事場になっています。ただ、地方に出張することも多いので、さまざまな環境で仕事をしているという感じですね。

花城:デザインの仕事も行った先でしているのですか?

木本:はい。むしろ色々な環境で仕事をすることが好きなんですよね。ホテルの中で仕事をしたり、山で打ち合わせをしたり、タクシーの中で打ち合わせをすることもあります。旅先などですごく景色がいい場所や、すてきな空間に出会うたびに、「ああ、ここで仕事をしたい」って思うんですよ。私の趣味って仕事なんだなって思います(笑)。


花城:木本さんが書く文章は自然体でとても魅力的だなと感じるのですが、普段どのような本を読んでいるのかも知りたいです。

木本:基本的には色々と書き込みたいので、紙の本を買って読んでいます。最近読んだ中でお勧めしたいのは、『天才による凡人のための短歌教室』(木下龍也著 ナナロク社)という本ですね。短歌の入門書を読むなら絶対にコレ。私もこの本を読んで短歌を詠み始めたのですが、もしこれからコピーライターを目指している方がいれば、短歌を書くことがかなりの近道になるのではと思います。

花城:短歌にはたしかにコピーライティングに重要なことが詰まっていそうですね。そのほかに、感性を磨くために普段からやっているルーティンはありますか?

木本:目に留まったものの写真を撮って、それがなぜいいと思ったかを言語化するようにしています。新卒1年目の頃からだから、6年くらいはやり続けていますね。旅行や特別な経験をしなくても、何気ない日常の中に興味深いものはたくさんありますから。


たとえばこの写真だと、民家のモルタルの穴のところから、マリモみたいに花が出てきてしまっていますよね。その状態が、自由に向かって解放されているようで面白いし、花びらが落ちているところにノスタルジーを感じたりもします。そうやってログを残していくことで、解像度が高い目を持てるようになるんです。

花城:なるほど。お話を聞いていると、日常での観察はすごく臨場感があると感じられますね。同時に偏愛すら感じます。ちなみに音楽はどのような音楽を聴くのでしょう?

木本:私は中学生の頃からずっと、スピッツが好きですね。スピッツの歌詞ってすばらしくて、深読みできる歌詞が多いんです。余白と揺らぎのある、人に判断を委ねるような、ちょっと隙間のある歌詞で、それは、自分がコンセプト文をつくる時に大切にしていることと共通しているように感じます。

個の時代で循環する仕組みをつくっていく。これからのHARKEN

花城:ここまでは木本さんの働き方を伺ってきたのですが、一緒に働くチームについても聞いてみてもいいですか?

木本:基本的に、プロジェクトごとに必要な人をアサインしてチームをつくり、終われば解散するようなスタイルをとっています。同じメンバーでチームを組み続けるより、そちらの方がずっと気持ちいい。現在も10個くらいのプロジェクトを抱えていますが、全員違うメンバーで編成されています。これからは個の時代。ずっと同じ人と働くという考えは、持たなくてもいいと思います。


花城:プロジェクトごとにオーシャンズ11のようなドリームチームをつくっているのですね。木本さんの求心力とそのキュレーション能力がすごいです。逆に、木本さん1人でやっている場合、どのようにされていますか?

木本:私の場合は、自分の中にもう1人の人格をつくっていますね。それぞれの人格を行き来するように、5分ごとに切り替えたりするんです。「今から私はアバンギャルドな木本だ」と自分に言い聞かせたら、そのモードに切り替えて、平常時では全く思いつかないような前衛的なアイデアを出してみる。そして5分たったら「現実的な木本」にバトンタッチして、冷静な視点でアバンギャルドな自分が出したアイデアに意見していく。このように、自分の情熱と冷静さを切り分けて、チームのブレストのような状態をつくることでアイデアに磨きをかけています。

花城:なるほど、攻めの木本と守りの木本がいるんですね。僕もデザインをしているとき、「女子高生に伝わるか」「自分の母親には伝わるか」と、目線を変えてみようとすることはありますが、人格を2つもってブレストするというのは面白い発想です。

それでは最後に、今後挑戦していきたいことを教えてください。

木本:今ある自分の事業は、まだ立ち上げたばかり。これらの事業やブランドがこれから世の中に受け入れられ、需要と供給が成り立ち、マネタイズができる状況になるように、事業を成長させていきたいですね。それが直近の目標です。

基本的には、目の前の仕事を、いいクオリティで誠実にやるだけで、必ず未来につながる。日頃から仕事を頑張ることで、次々と声がかかるループは、引き続き大切にしていきたいと思います。

花城:木本さんの話を直接伺ってみて、デザインにかける情熱とエネルギーをかけてキャリアを築いていくパワーを感じました。またサービスデザインやブランディングを考える上でヒアリングを大切にしている点や積み上げて磨き込んでいくプロセスにも共感しました。「耳を傾ける」という意味から名付けられた「HARKEN」の社名の由来もきけたので今後も木本さんの活躍が楽しみです。本日はありがとうございました。

BCG X's job postings
31 Likes
31 Likes

Weekly ranking

Show other rankings
Like Akiko Tanaka's Story
Let Akiko Tanaka's company know you're interested in their content